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既存不適格建築物の基礎と取引手順|融資・価格・リスクを15項目で解説

既存不適格建築物とは、建築当時は合法でも、その後の制度改定でいまの基準に合わなくなった建物のことです。

しばしば「違反建築物」と混同されますが、成り立ちも対応方針も別物。確認すべき資料、融資や価格の見られ方、工事可否やリスクを実務の順番で整理します。購入・売却・保有の各場面で押さえる勘所を俯瞰でき、短時間で判断の軸を得られます。

 

既存不適格の基礎

既存不適格建築物は「建設時は適法、のちの法改正や都市計画変更により現行に不適合」となる建物を指します。違反建築物と似て見えても、背景が異なるため、取引・融資・改修の扱いも変わります。

実務では、買主・売主・オーナーいずれの立場でも、①現況の安全・使用に即時の支障があるか、②将来の建替え・用途変更にどの制約が残るか、を切り分けて把握することが重要です。

 

戸建て・マンション・土地で論点は異なり、区分所有マンションは管理規約や修繕積立の健全性、戸建ては前面道路とセットバック、土地は建ぺい率=敷地面積に対する建築面積の割合・容積率=敷地面積に対する延床面積の割合が主戦場です。

賃貸・投資では、金融機関の評価と保険加入の可否が賃料水準と出口戦略に直結します。自治体運用に差がある点も前提とし、記載は現行法の整理(2025年11月5日)です。

 

  • 起点は「当時適法」→基準改定でのちに不適合化。
  • 違反建築物とは成立経緯・是正の方向が異なる。
  • 戸建ては道路・斜線、マンションは管理体制・耐震が焦点。
  • 土地は建ぺい率・容積率・地目の整合を重視。
  • 投資では融資姿勢・保険可否が利回りと出口に影響。
  • 自治体・金融機関で基準差あり→事前確認が必須。

 

法的定義と根拠条文の把握

法的には「建築時に適法、後日基準が改まり現行に適合しない状態」を既存不適格と捉えます。建築基準法は原則として広範な遡及適用をとらず、既に適法に建てられた建物に一律で最新基準を課す趣旨ではありません。

ただし、防火避難・構造安全に関わる改修、増築や大規模の修繕・模様替、用途変更では現行基準に沿う求めが生じ得ます。

 

用途変更は特殊建築物や床面積の閾値により確認申請の対象となることがあり、手続を怠ると違反扱いとなります。

用語も正確に整理します。建築確認=計画の適法性を審査する手続、検査済証=竣工時の適合証明、接道義務=幅員4m以上の道路へ2m以上接する要件、などです。

相続や賃貸で当面使用に支障がなくても、建替え・売却・融資の条件は変わるため、定義と条文の射程を先に固めます(記事・根拠時点:2025年11月5日、地域差あり)。

 

条文理解の要点
  • 当時適法の建物に最新基準を一律で要求しないのが原則。
  • 増築・大規模修繕・用途変更は現行基準の適用範囲を確認。
  • 防火避難・構造安全は個別に追加適合が必要な場合あり。
  • 確認・検査・定期報告など手続の有無が評価を左右。
  • 自治体の審査運用や指定区域の違いは事前相談で確認。

 

違反建築物との違いを具体比較

既存不適格と違反建築物は「出自」と「是正方向」が決定的に異なります。既存不適格は制度側の更新により不適合となったもので、既存利用を直ちに禁ずる趣旨ではありません。

他方、違反建築物は当初から適法性を欠き、是正指導や罰則、融資・保険の制約が厳しくなりがちです。

 

実務では、売買の告知、重要事項説明書の記載、金融機関への説明、建替え可能性の見立てが分岐点。

戸建ては接道や斜線、マンションは耐震・避難、土地は容積・建ぺいの超過が焦点です。相続・投資では、告知の適切さと是正可能性の見極めが価格・融資条件を左右します(地域差あり)。

 

観点 既存不適格 違反建築物
成立要件 当時適法→のちの改定で不適合 当時から不適合・手続不備
是正方向 増築・用途変更時に部分適合の検討 是正命令や使用制限の可能性
融資傾向 機関差あり・担保評価は割引傾向 厳格・融資不可や高自己資金を要求
告知の扱い 現況・制約の説明で合意形成 是正計画の提示が前提化しやすい
出口影響 建替え条件で価格振れが大きい 選好が弱く価格形成で不利

 

不適格化の主因と典型事例チェック

不適格化は、都市計画や技術基準の更新が主因です。例として、用途地域変更で容積率が引下げられたマンション、道路見直しでセットバックが必要になった戸建て、準耐火の要件強化に未対応の木造共同住宅など。

土地は建ぺい・容積の規制強化で、現行上は同規模で建替えられないケースが生じます。賃貸・投資の現場では、避難経路・耐震の不足が指摘されると、融資や保険で不利になり得ます。

主因を特定し、改修または建替えの選択肢を並べることが、価格・出口戦略づくりの出発点です(地域差あり、記事・根拠時点:2025年11月5日)。

 

【典型事例】

  • 用途地域・高度地区の変更→容積率縮小で既存床が超過。
  • 道路幅員の見直し→将来建替え時にセットバック要。
  • 耐震基準の強化→共同住宅は改修費が増加しやすい。
  • 防火・準防火の指定拡大→開口部性能が不足。
  • 日影・斜線強化→同規模再建が不可となる可能性。
  • 用途変更の運用変更→確認申請が必要な規模へ。

 

継続使用の条件と安全面の注意点

既存不適格でも、日常の維持管理や軽微な修繕の範囲なら継続使用できる場合が多いです。一方、増築・大規模修繕・用途変更・避難安全に関わる改修では、現行基準への適合が求められます。

戸建ては接道義務の不足があると建替え・再建で制約が残り、マンションは耐震・防火・避難設備の更新計画が資産価値や保険条件に影響。

 

賃貸・投資では共用部の防火区画、非常用照明、避難経路の確保が指摘されやすい項目です。相続・売買では、現況と制約を丁寧に説明し、特約・告知で合意を形成することが有効。

判断に迷う点は行政窓口・専門家へ早めに相談します(地域差あり、記事・根拠時点:2025年11月5日)。

 

継続使用の安全チェック
  • 避難経路と防火設備→点検記録・写真で裏付け。
  • 耐震性能→診断や長期修繕計画で数値を把握。
  • 増築・用途変更→確認申請の要否とコスト試算。
  • 接道・セットバック→将来の建替え可能性を評価。
  • 賃貸中→安全配慮義務と通知・是正計画を整備。

 

確認方法と現況調査手順

既存不適格かどうかは、現況の実測×公的記録の突合で判断します。まず所有者が揃えられる資料を集め、次に役所で台帳・図面の写しを確認、最後に敷地と道路の実測でズレを検証。

戸建ては建築確認と道路幅員、マンションは検査済証と管理体制、土地は都市計画指定と建ぺい・容積の整合が核です。売買・賃貸では、重要事項説明書と付帯資料に落とし込める粒度まで整えるとトラブルを抑制。

投資では、金融機関が重視する「検査済証」「接道2m」「用途地域・地区指定」「増築時の適合可否」を先に固めると、融資可否や自己資金の見立てが早まります。名称・取得手続は自治体差が大きい点も前提に。

 

  1. 事前準備→登記簿、公図、地積測量図、図面、過去工事資料。
  2. 役所調査→建築台帳、確認関係の写し、都市計画情報、道路台帳。
  3. 現地確認→寸法・高低差・越境・セットバック・安全設備。
  4. 突合と記録→数値・日付の不一致を抽出し、写真・メモで記録。
  5. 是正可能性の整理→増築・用途変更の可否、費用・期間の概算。
  6. 取引書類へ反映→告知・特約・引渡までの対応方針を明確化。

 

必要書類と公的写しの把握

調査の出発点は「どの公的記録で何を確かめるか」の明確化。戸建ては建築確認の写しと道路関係、マンションは検査済証と管理関連、土地は都市計画情報と測量が要点。

登記簿は権利・地目・地積の基礎資料、固定資産関係は課税上の面積や家屋種別の確認に有用です。

自治体ごとに書類名や閲覧方法が異なるため、建築指導課・都市計画課・道路管理者の所管を把握して申請。所有者以外は閲覧制限がかかる場合があるため委任状を準備します。

 

書類 取得先 確認ポイント
不動産登記簿 法務局 地目・地積・構造・床面積・所有者・権利の齟齬
公図・地積測量図 法務局 境界・筆界、現況との差、越境・私道負担
建築台帳記載事項証明 建築指導課 確認番号・用途・構造・面積・完了日・検査済証
建築確認申請の写し 建築指導課 配置・平面・断面の現況一致、増築履歴
検査済証の写し 建築指導課 番号・日付・対象範囲。欠落時の代替資料検討
都市計画情報 都市計画課 用途地域、防火、地区計画、高度、特別用途地区など
道路台帳・幅員証明 道路管理者 種別・幅員・境界・位置指定の管理状況
固定資産税関係 資産税課 家屋の種類・床面積・課税の取り扱い
管理関連(マンション) 管理会社 重要事項調査、長期修繕計画、管理規約

 

台帳と検査済証のチェック

建築台帳と検査済証は、当時適法かつ竣工時の検査を経たことを示す中核資料です。台帳記載事項証明で確認番号・用途・構造・面積・完了日を現況と照合し、図面の配置・高さ・開口位置が一致するか確認。

検査済証がなければ、金融機関が担保評価を割引したり融資を見送る場合があります。

 

欠落時は、当時の確認図書の写し、完了検査未了の有無、増改築履歴、完了を推認できる代替資料を整理し、将来の用途変更・増築で必要となる是正項目と費用目安を添えて説明します。

マンションは共用部図面・避難設備・検査済証の対象範囲を重点確認。戸建ては台帳面積と現況の差異、車庫や増築部の適法性を重点的に見ます。

 

台帳と検査済証の確認要点
  • 用途・構造・面積→現況一致を写真で裏付け。
  • 検査済証の番号・日付→対象工事の範囲と整合を確認。
  • 欠落時→代替資料+現地調査で合理的に説明。
  • 増築・用途変更→適用範囲とコストを概算。
  • 金融機関向け→資料一覧と差異表で透明性を確保。

 

用途地域とエリア指定の照合

都市計画の指定は、既存不適格の成否と将来の建替え可否に直結します。まず用途地域を確認し、防火・準防火、高度、地区計画、特別用途、風致・景観、日影規制など、重層する指定を洗い出します。

敷地が複数指定にまたがる場合は、図面で範囲を確定。容積率は指定容積率と前面道路幅員による制限の小さい方が上限となる方式が一般的で、住居系と商業系で係数が異なります。

建ぺい率は角地や耐火建築物で緩和がある一方、地区計画で厳格化されることも。マンションは共用部規制、戸建ては斜線・日影、土地は指定混在に注意。自治体運用差が大きいため所管課の一次情報で確認します。

 

  • 用途地域→建てられる用途・規模の上限。
  • 防火・準防火→開口部性能・外装仕様に影響。
  • 高度・日影→高さ・ボリュームに直結。
  • 地区計画→形態・意匠・細分化の制限。
  • 容積の道路制限→前面幅員次第で上限低下。
  • 角地緩和・耐火緩和→建ぺい率が上がる場合あり。

 

前面道路の幅員確認

接道義務は「幅員4m以上の道路へ2m以上接する」重要要件。幅員は境界線間の水平距離で、現地実測に加え、道路台帳・幅員証明・道路境界確定図で裏付けます。二項道路では将来の建替え時にセットバックが必要なため、後退量を早期に算出。

例:現況幅員3mなら不足1m、片側の後退量は約0.5m。位置指定道路・私道は通行・掘削承諾や管理者の有無が価格・融資へ影響。マンション・共同住宅は消防活動スペースも視野に入れ、見取り図・写真で可視化し、重要事項説明書へ反映します。

 

資料・測定 確認ポイント
道路台帳・幅員証明 道路種別、法区分、幅員、供用開始日、管理者
道路境界確定図 境界点の座標、鋲、境界と塀・側溝の位置関係
位置指定道路台帳 指定日、図面幅員、復員計画、管理者・持分
現地実測 車線・側溝・電柱位置、後退余地、勾配・段差
セットバック算定 不足分を等分後退→面積減少を試算
写真と平面図 接道長2m確保、出入口幅、消防活動スペース

 

増築・用途変更の制度

既存不適格でも、軽微な修繕・設備更新は継続可能なことが多い一方、増築・用途変更では現行基準の適合を要します。

実務は、工事の規模・影響範囲、主要構造部=柱・梁・床・壁・屋根など骨組みへの影響、避難・防火の変更点を切り分け、確認申請の要否と適用条項の範囲を早期に確定。

 

戸建ての増築は接道・斜線・日影、マンションの用途変更は共用部の避難動線・防火区画、土地活用は地区計画・高さ制限の上乗せが要点です。

賃貸・投資では、改修後の賃料・稼働と融資(期間・自己資金)を同時に設計。自治体・審査機関・金融機関で運用差があるため、事前協議が有効です。

 

  1. 現況把握→台帳・図面・検査済証・用途地域・道路条件。
  2. 計画整理→工事区分(軽微・大規模・用途変更)と影響範囲。
  3. 適合判定→防火避難・構造・容積・建ぺい・高さの再計算。
  4. 手続確認→申請要否、必要図書、スケジュール・費用見積。
  5. 資金計画→融資可否・金利・自己資金と改修後収支を試算。
  6. 合意形成→当事者へ説明し、特約・告知へ反映。

 

緩和措置と遡及除外の把握

既存不適格は、一律の遡及適用を受けないのが原則。ただし安全・構造・避難に関わる計画では、現行基準への適合が広がる場合があります。

逆に、影響が軽微な更新・模様替えは確認申請や広範な適合を要しないことも。区域や条例で特例・上乗せがあるため最新の一次情報を確認。

戸建てはセットバックを踏まえた増築緩和、マンションは共用部の維持管理に支障しない更新、土地活用は地区計画の個別運用が焦点です。

 

論点 概要 実務の確認
遡及除外 既存部分へ最新基準を一律適用しない考え方 既存部の継続可否と工事対象への適用境界を特定
緩和措置 地区計画・条例・技術基準の特例・代替措置 代替性能で満たせるか事前協議
軽微工事 安全影響が小さい更新・模様替え 申請要否・図書簡略化・工期費用の縮減余地
増築時の扱い 増築部は現行・既存部は原則既存扱い 一体判定が必要か審査機関へ照会

 

大規模修繕と模様替の注意点

大規模の修繕・模様替は、主要構造部の過半に及ぶ工事を指し、設計・確認・監理の難度が上がります。主要構造部(柱・梁・耐力壁・床・屋根等)に手を入れる計画では、構造耐力・火災時の安全・避難に支障がないかを現行の考えで検討します。

共同住宅は、防火区画の貫通部処理、非常用照明・誘導灯、排煙方式、バルコニー避難の有効幅が必須論点。

戸建ての大きな改修は、外壁・屋根の仕様が準防火の要件に抵触し得るため、性能改善とコストのバランスを評価。賃貸中の工事は、入居者の安全配慮・工事中の避難確保を優先し、工程・掲示・代替動線まで事前計画に織り込みます。

 

工事計画の実務上の注意点
  • 工事区分→大規模該当の判定根拠を明確化。
  • 避難・防火→区画・開口性能・照明・誘導の見直し。
  • 構造安全→荷重経路・劣化状況を調査し補強方針を明示。
  • 入居中→掲示・動線確保・仮設・騒音振動の管理。
  • 記録→写真・検査・材料証明を保管し取引・融資に備える。

 

特殊建築物100平米超の基準

用途変更は、建物(又は一部)の用途区分を変える行為。特殊建築物=不特定多数が利用し防火避難上のリスクが高い用途(学校・病院・ホテル・飲食店・物販など)へ変更する場合、確認申請が必要となる場面があります。

実務上は、用途変更部分の床面積が一定閾値を超えると審査対象になりやすく、100㎡超では図書整備と防火避難・構造の適合設計が必要になるのが一般的。

 

住戸を店舗へ、事務所の一部を飲食へ、倉庫を物販へ、といったケースでは、厨房区画・排煙・内装制限・収容人員算定が新規に求められます。

賃貸・投資の視点では、設計・申請・工事・休業の総事業費で採算判断。運用差があるため、所管課で用途区分の解釈・面積算定方法を確認します。

 

  • 対象用途の特定→学校・医療・宿泊・飲食・物販など。
  • 面積算定→用途変更部分の合計で閾値を比較。
  • 内装制限→不燃区分・仕上げ厚・告示仕様を確認。
  • 収容人員→床面積・用途に基づく人員と避難計画の整合。
  • 設備→排煙・感知器・非常照明・誘導灯・消火設備の設置。
  • コスト→設計・申請・工事・休業損を合算。

 

防火避難と構造の安全確認

増築・用途変更では、火災時の安全と構造耐力の確保が最優先です。防火は、開口部性能、延焼のおそれのある部分の範囲、外壁開口制限、内装制限、区画貫通部処理、排煙の方式と有効性を確認。

避難計画は、避難距離・歩行距離、避難階への誘導、バルコニー・隣戸避難の可否、非常用照明・誘導灯の連続性、階段・廊下幅の確保が基本。

 

構造は、増築部の荷重伝達、既存部の劣化や腐朽・蟻害、基礎沈下の有無、耐力壁バランス、柱脚・接合部性能を点検。

戸建ては耐震診断で優先改修部位を特定、マンションは長期修繕計画と一体で躯体・防火設備の更新を進めます。売買・賃貸の取引では、是正計画・点検記録の提示で説明責任と価格の合理性が高まります。

 

安全性の優先改善リスト
  • 避難→区画・幅・連続性の確保、非常照明の増設。
  • 区画貫通→配管・ケーブルの防火措置を追加。
  • 開口部→延焼部位の仕様見直し、サッシ・ガラス性能更新。
  • 排煙→自然排煙の有効性を検証し必要に応じ機械排煙。
  • 構造→劣化補修・耐震補強・荷重偏在の是正。
  • 記録→点検・工事・材料の記録整備で将来に備える。

 

融資・取引の基準

既存不適格の取引は、融資可否と契約の整合性を同時に設計します。金融機関は担保の安定性と建替え制約を重視し、検査済証、接道、容積・建ぺいの超過、用途・地区指定、避難・防火・構造の安全を多面的に評価。

立場ごとに用意する資料が異なるため、台帳・図面・証明の裏取り→差異の可視化→説明資料化→契約条項への落とし込み、を流れで整えます。

住宅ローンは居住安全と法適合、投資ローンは収益性と出口の確度を重視。瑕疵保険の適用可能性は早めに確認し、保険で担保できる範囲/できない範囲を切り分けます。

 

観点 評価ポイント 実務資料
法適合 検査済証、用途、容積・建ぺい、接道 台帳記載事項証明、確認図書、都市計画、道路台帳
安全性 耐震・防火・避難設備の現況と更新計画 耐震診断、点検記録、長期修繕計画、写真
収益性 賃料の持続、空室・修繕、出口見通し 賃貸借契約、修繕履歴、資金計画、売却戦略
契約整合 告知の適切さ、特約の明確さ、引渡条件 重説、売買契約書案、是正計画

 

フラット35の検査基準の把握

フラット35を使う場合は、適合証明の取得可否が最初の分岐です。既存不適格でも、当時適法の説明と、現行基準で求められる安全要件を満たす計画が整えば、適合に到達できる余地はあります。

実務では、確認図書と現況の差異、接道、容積・建ぺいの適用、避難・防火・構造要件を個別に整理し、必要に応じ軽微な是正工事も計画。

 

マンションは共用部設備・避難経路の整合、戸建ては接道・セットバック、土地は再建時の制約が焦点。

検査は指定機関が行い、図書整備と現地確認で判定。結果は金融機関の審査資料に落とし込み、リスク管理の方法を併記すると行き違いを減らせます。

 

ポイント
  • 事前相談→図書の有無・差異・是正難易度を確認。
  • 現地調査→用途・面積・高さ・開口・避難設備の整合。
  • 適合可否→不足箇所を抽出し是正計画を作成。
  • 是正後→写真・検査記録で改善を可視化。
  • 証明書取得→審査資料と併せて金融機関へ提出。
  • 契約反映→残作業は特約で明確化。

 

銀行ローンの審査視点比較

銀行ローンは、居住用と投資用で見方が変わります。居住用は安全性・将来の建替え制約を重視し、検査済証・接道・容積・建ぺいなど法令上の制約をどれだけ丁寧に説明できるかが鍵。

投資用は収益・出口の確度を重視し、空室・修繕・保険・金利上昇耐性を含むキャッシュフローの頑健性を確認。

既存不適格では、同規模再建ができないリスク、二項道路のセットバックによる有効敷地の減少、用途・地区計画の上乗せ規制が担保評価に影響。厳しい評価では自己資金の増額や金利・期間の調整が必要になる場合があります。

 

観点 居住用ローン 投資・事業用ローン
法適合 検査済証・接道・容積・建ぺいを重視 法適合+テナント用途・避難要件も確認
評価軸 居住安全・建替え可否・保全計画 収益力・空室・修繕耐性・出口の再現性
資料 確認図書・点検記録・是正計画・適合証明 賃貸借契約・収支計画・長期修繕計画・保険条件
条件影響 説明の透明性で審査結果が変動しやすい 厳評価時は自己資金・期間・金利の調整が必要

 

売買告知と特約説明の注意点

既存不適格の売買では、告知と特約で誤解を防ぐことが要諦。

重説では、建築時は適法であること、現行では容積・建ぺい・高さ・斜線・日影・接道などで不適合の可能性、建替え時に同規模不可の恐れ、二項道路のセットバック要否、地区計画・防火の上乗せ、用途変更時の確認申請の要否を具体に示します。

契約書では、現況有姿か、売主負担で是正か、是正不要だが告知は行うのか等を明記。相続・賃貸中売却は、入居者対応・工事時期の調整まで共有。条項は断定を避け、一次情報に基づく事実と合理的見通しを分けて記載します。

 

  • 告知の核→当時適法/現行不適合の両輪を明示。
  • 建替えリスク→セットバック・容積制限で同規模不可の恐れ。
  • 是正方針→売主・買主いずれが負担か、作業区分を明確化。
  • 用途変更→申請要否・必要図書・期間見込みを記載。
  • 入居中→工事計画・通知・代替動線の合意形成。
  • 専門家連携→不明点は建築士・司法書士・宅建士へ相談。

 

瑕疵保険と保証の適用基準

瑕疵保険は既存不適格そのものを補償しませんが、住宅の基本性能(構造・雨漏り等)に関わる保険を活用できる場合があります。

既存住宅売買瑕疵保険は、所定の事前検査に合格した住宅を対象に、引渡後一定期間の対象瑕疵の修補費用をカバー。

リフォーム瑕疵保険は工事箇所の瑕疵を対象に、施工会社倒産時の保護も一部あり。共同住宅・投資用では適用条件が異なるため、用途・規模・工事ごとに適否を整理。保険で覆えない既存不適格由来の制約は、告知と特約でリスク分担を明確化します。

 

区分 対象・主条件 実務ポイント
既存住宅売買瑕疵保険 構造・雨漏り等。事前検査適合が前提 インスペクション結果を契約に反映、対象外を明記
リフォーム瑕疵保険 工事箇所の瑕疵。加入・検査が前提 範囲・仕様・材料証明、竣工写真の保管
その他保証 メーカー保証・延長保証・管理組合保険など 規約・約款を確認し、重複・対象外を整理

 

価格・出口の相場

既存不適格の価格は、適合物件の成約水準から、再建時の規制・改修コスト・融資条件の不利を差し引いて判断します。

拠り所は、近隣成約、地価公示(最新公表日と水準)、基準地価(最新公表日)、路線価(年度)、固定資産評価(直近年度)などの一次情報。

 

出口は「保有継続/改修による賃料改善/建替え/売却」の4択を並列に検討し、表面利回りと実質利回りを同時に見るとブレにくいです。

戸建ては接道とセットバック、マンションは耐震と共用部負担、土地は容積と高度地区等の規制が価格ドライバー。

 

  • 割引幅は再建可否・面積減・改修費・融資条件で決まる。
  • 比較対象は築年・規模・駅距離・用途・管理を揃える。
  • 表面だけでなく実質利回りで判断。
  • 出口は4択を横並びで比較。
  • 一次情報は公表時点を併記し時点ズレを防ぐ。

 

市場価格と割引幅の目安把握

割引幅は、同エリア適合物件の成約を基準に、再建可否、延床の減少、耐震・防火の不足、融資の厳格化を数値化して差し引くのが実務的。地価公示(毎年3月公表)、基準地価(毎年9月)、路線価(毎年7月)は最新公表時点を明示して利用します。

例:近隣適合戸建の成約4,000万円、再建規模が2割縮小見込み、軽微な是正200万円、自己資金割合上昇の影響あり→割引は1~2割台へ広がる想定。土地・共同住宅は容積制限や管理費・修繕積立の影響を加味します。

 

前提 適合物件の成約 既存不適格の目安
再建可・軽微是正 4,000万円 3,600~3,800万円〈割引5~10%〉
再建規模縮小1割 4,000万円 3,400~3,700万円〈割引10~15%〉
再建規模縮小2割 4,000万円 3,200~3,600万円〈割引15~20%〉
再建困難・要大規模改修 4,000万円 2,800~3,400万円〈割引20~30%〉

 

建替え時の規制影響の比較

建替え可否は、容積・建ぺい、前面道路幅員、地区計画や高度地区などで決まります。

容積は指定と前面道路幅員による制限の小さい方が上限となるのが一般的で、住居系では道路幅員×0.4、非住居系では×0.6が上限目安。

 

例:敷地100㎡、指定容積200%、前面道路3.0m、住居系→道路制限により容積上限120%、再建可能な延床は120㎡へ低下。

建ぺいは角地緩和で上限が上がる場合がある一方、地区計画で厳格化も。地域差・審査機関の運用差を見越し、事前相談が有効。

 

  1. 指定の洗い出し→用途、防火・準防火、高度、地区計画。
  2. 容積上限→指定と道路制限の小さい方を採用。
  3. 建ぺい→角地緩和・地区計画の上乗せを確認。
  4. 再建シミュレーション→有効敷地・階数・高さから延床算出。
  5. 価格影響→延床減少率を割引率に連動させる。

 

耐震改修費と修繕費の概算把握

耐震・防火の不足は、改修費を価格に織り込む必要があります。診断費は戸建てで10万~30万円台、共同住宅の住戸内部調査は規模に応じて数十万円が一般的。

耐震補強は木造戸建てで200~500万円台(延床80㎡想定で2.5~6万円/㎡)、鉄骨・RC補強は計画によるが3~10万円/㎡の幅で見積ることが多い。

外壁塗装は2,500~4,000円/㎡、屋根葺替は5,000~9,000円/㎡、共用部の防火区画・設備更新は別途計上。

 

工事項目 単価・費用目安 算定例
耐震診断 1棟10~30万円 戸建80㎡で20万円台を想定
木造耐震補強 2.5~6万円/㎡ 80㎡で200~480万円
外壁塗装 2,500~4,000円/㎡ 外壁150㎡で37.5~60万円
屋根葺替 5,000~9,000円/㎡ 100㎡で50~90万円
区画・設備 計画次第で大きく変動 排煙・感知器・非常照明の増設は別途

 

保険と災害時の備えチェック

保険は既存不適格そのものを補償しませんが、再調達価格に基づく火災保険、付帯の地震保険、水災・風災など特約設計でリスク耐性を高められます。地震保険は火災保険金額の3~5割が上限の枠組みが一般的で、免責・限度額により保険料が変動。

セットバックで延床減の見込みがあれば、保険金額が過大とならないよう再調達価格を見直します。マンションは共用部保険と専有部保険の役割を確認し、共用部の免責・特約に合わせて専有部を補完。

ハザードマップで浸水・土砂・津波・道路遮断リスクを把握し、非常時の動線と備蓄を整えます。

 

ポイント
  • 火災保険→再調達価格基準で過不足を避ける。
  • 地震保険→火災の3~5割で付帯、免責・限度額を確認。
  • 水災・風災→立地ハザードに応じ特約選択。
  • マンション→共用部/専有部の保険の役割分担を点検。
  • 非常時→避難経路・連絡手段・備蓄の定期更新。

 

まとめ

既存不適格は違反ではなく、法改正で現行に合わなくなった状態。実務は、①台帳・検査済証、②用途地域・道路、③増改築の可否、④融資・価格の基準、の順で確認。

割引幅や改修費を見積り、告知・特約でリスクを配分すれば、購入・売却の再現性が高まります。迷ったときは公的資料で裏を取り、一次情報に沿って判断しましょう。