借地権割合は、土地の価値のうち借地人が保有する権利部分の比率です。相続税評価や実際の売買価格、更新料・承諾料の目安づくりに直結します。
本稿では、路線価・倍率方式の使い分け、借地と底地の関係、補正係数や敷地権持分の読み方、契約・税務の注意点までを体系的に整理。初学者でも、価格判断とリスク回避の基準を短時間で身につけられる構成としました。
借地権割合の基礎
借地権割合は「自用地としての価額(更地評価)」を起点に、借地人の権利価値がどの程度を占めるかを示す指標です。
評価は、路線価方式(路線価×地積に必要な補正を反映)または倍率方式(固定資産税評価額×評価倍率)で自用地としての価額を確定し、借地権価額=自用地としての価額×借地権割合、底地価額=自用地としての価額×〔1−借地権割合〕の順で把握します。
相続・贈与・売買のいずれでも、路線価の年度、公表時期、倍率表の年度、固定資産税評価額の年度(納税通知書の記載)をそろえることが不可欠です。
対象が戸建てなら地積・接道・私道負担、マンションなら敷地権持分と地代、素地の土地なら地目や地積更正の有無が主要論点になります。
買主・売主・地主・借地人それぞれの立場で必要資料と説明が異なるため、早期に書類を集約し、算定根拠と時点を統一することがトラブル防止につながります。
【重要ポイント】
- 起点は「自用地としての価額」→借地・底地に按分
- 路線価方式/倍率方式の選択→対象地の区分で判断
- 年度・公表日の整合→基準日と数値の時点を一致
- 取引形態別に必要書類を明確化
- 地域差を前提に運用差の余地を把握
用語定義と算定方法の基本
用語をそろえると評価手順が明確になります。
借地権=他人の土地を一定期間使う権利、底地=借地権が付着した土地の所有権、借地権割合=自用地としての価額に対する借地側の割合、路線価=道路ごとに付される1㎡当たりの価格、倍率方式=路線価の設定がない地域で固定資産税評価額に倍率を掛ける方法、が基本線です。
算式は、借地権価額=自用地としての価額×借地権割合、底地価額=自用地としての価額×〔1−借地権割合〕。
実務では、登記簿・地積測量図・固定資産税納税通知書で面積や年度を確認し、路線価図または倍率表の年度を合わせます。
目的(売買・相続・贈与)と対象(戸建て・マンション・土地)を先に確定してから評価に入ると効率的です。
| 用語 | 定義 | 実務での確認 |
|---|---|---|
| 借地権 | 他人の土地を使用・収益する権利 | 契約期間・地代・譲渡/転貸・増改築条項 |
| 底地 | 借地権が付いた土地の所有権 | 地代水準・承諾料の取扱い・再契約条件 |
| 借地権割合 | 自用地としての価額に対する借地側の割合 | 路線価図の記号(A〜G)や倍率表の注記 |
| 自用地としての価額 | 更地前提の評価額 | 路線価×地積(補正後)/固定資産税評価額×倍率 |
路線価と倍率方式の基準
最初に、対象地が路線価地域か倍率地域かを判定します。路線価地域なら、面する路線の単価(円/㎡)×地積(㎡)に、間口・奥行・角地・不整形など必要な補正を適用して自用地としての価額を出します。
倍率地域なら、固定資産税評価額(年度明示)×評価倍率(年度明示)で同額を求めます。次に借地権割合を乗じて借地権価額、差引で底地価額を把握する流れです。
戸建て売買は、地積や地目の整合、私道負担・セットバックの扱いが焦点。マンション相続では、敷地権持分と専有面積の対応を要確認。
土地の等価交換や共同事業は、建ぺい率・容積率・地区計画の影響も合わせて検討します。
【確認事項】
- 路線価図→最新公表分の年度と基準日を明示
- 倍率方式→評価額の年度と倍率表の年度を一致
- 補正→間口・奥行・角地・不整形・側方路線の要否を点検
- 私道・セットバック→有効宅地面積で再計算の可否を検討
- 敷地権持分→区分は持分比と評価対象面積の整合を確認
借地権と底地の違い比較
借地権は自己利用・賃貸で収益化できる一方、譲渡・転貸・増改築に承諾が必要な場合があり、承諾料・名義変更料がコスト要因です。
底地は地代収入が期待できますが、改定・明渡しは法的手続や交渉を伴い、キャッシュフローは細くなりがち。
売買では、借地権は実需やリノベ需要、底地は長期保有・相続対策・再開発協議などで買い手層が分かれます。
投資判断では、地代(円/年)、承諾料の見込み、更新・再契約の条件、相続や贈与の税負担が主要変数です。
| 観点 | 借地権 | 底地 |
|---|---|---|
| 権利内容 | 土地の使用権。承諾要件が付くことが多い | 所有権だが借地権が付着し制約がある |
| 収益性 | 利用・賃貸で収益化。承諾料収入の機会あり | 地代収入は安定的だが水準差が大きい |
| 出口 | 譲渡・建替え・等価交換など | 借地人との合意、底地売却、等価交換が中心 |
| 実務コスト | 承諾料・名義書換・増改築手続 | 地代改定交渉・明渡・非訟の可能性 |
借家権との関係整理の注意点
借家権(建物の賃借人の権利)と借地権(土地の賃借権)は別概念です。ただし、相続税評価で貸家建付地を扱う際に、借地権割合・借家権割合・賃貸割合(貸家が占める比率)を組み合わせる控除的評価が登場します。
住宅・事業・契約(普通/定期)の違いで評価は変わるため、前提条件を明示して計算書を作成し、出典と年度を添付します。
- 自用地・借地権割合・借家権割合の出典と年度を統一
- 賃貸割合の算定根拠(面積・戸数)を明確化
- 契約形態(普通/定期)と更新・解約条項を確認
- 関係者の立場(買主・売主・地主・借地人・借家人)を明示
- 税務リスクは専門家へ事前相談
評価と価格の相場
価格へ落とし込む最初の一歩は、路線価地域なら路線価(円/㎡)×地積(㎡)に補正を適用、倍率地域なら固定資産税評価額(年度)×評価倍率(年度)で自用地としての価額を確定することです。
そのうえで、借地権価額=自用地としての価額×借地権割合、底地価額=自用地としての価額×〔1−借地権割合〕を適用。
相場確認は、成約事例の時点・規模・形状・接道・地代条件を合わせ、承諾料・更新料・増改築の制約が価格に与える影響を織り込みます。
戸建ては私道負担・セットバック、マンションは敷地権持分と管理費・修繕積立金(円/月)、土地は地目や建ぺい率・容積率が論点。評価根拠の年度や公表日を明示し、時点のズレを避けることが重要です。
【確認ポイント】
- 自用地としての価額→補正・持分後に割合按分
- 補正→間口・奥行・角地・不整形・側方路線・私道負担を点検
- 時点整合→路線価・倍率・固定資産税評価額の年度を統一
- 取引目的に応じて資料と説明粒度を調整
- 事例比較は前提条件をそろえて差異補正
補正率と持分按分の目安把握
補正率は、現地の条件を価格へ反映する係数です。代表的なものは、間口狭小・奥行過大・不整形・角地・側方路線影響・私道負担・セットバックなど。
区分所有は、敷地権の持分(例:5,000/300,000)で土地部分を按分します。借地権割合の乗算は、自用地としての価額を確定させた後が基本です。
【試算例(仮定・単位併記)】
路線価30万円/㎡、地積100㎡、借地権割合70%、間口補正0.95、角地1.05、私道負担10㎡控除
→自用地としての価額=30万円×(100−10)×0.95×1.05≈2,828万円
→借地権≈2,828×0.70≈1,979万円/底地≈2,828×0.30≈848万円。
| 補正項目 | 趣旨 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 間口・奥行 | 利用効率の不利/有利を反映 | 基準と係数レンジ、測定起点の統一 |
| 角地・側方路線 | 視認性・通風・アクセス性の優位 | 交差点形状、幅員、騒音・交通量の影響 |
| 不整形・私道 | 設計制約・負担関係を反映 | 私道面積の控除、通行/掘削承諾の有無 |
| セットバック | 後退で減る有効宅地の補正 | 後退量と再計算後の面積確認 |
| 敷地権持分 | 区分所有の土地持分を按分 | 持分比と専有面積の整合 |
時価との乖離要因の比較
相続税評価額(評価額)と実勢価格(時価)は一致しません。乖離の主因は、地代水準、契約条項(期間・更新・承諾・用途)、容積未消化や再開発期待、接道・形状の個別性、金利・建築コスト、ハザード・計画道路などの将来要因です。
借地権は承諾料期待や増改築の自由度で需要が変化し、底地は地代の安定性や明渡し難易度で利回りが動きます。
【要因の整理】
- 収益→地代、承諾料/更新料、稼働率
- 権利→期間、譲渡転貸・増改築の可否、承諾条項
- 規制→建ぺい率・容積率、接道、地区計画、ハザード
- 市場→金利、再開発・インフラ計画、需給
- コスト→建築・造成・撤去・環境対応費
取引事例の読み方と活用チェック
事例比較は、市場妥当性の裏づけです。権利関係(借地か底地か、地代・承諾条件の有無)を明確にし、近隣・同時点・類似規模の事例を抽出。
形状・接道・地積・地目、建物の築年・構造・用途、区分なら持分・管理状態を合わせ、差異補正を施します。
譲渡形態(親族/第三者)、残存期間、承諾料・名義書換料の有無も価格影響が大きいため、個別補正を忘れないことが重要です。
- 権利一致→借地/底地の別、地代・承諾条件
- 時点一致→成約日と評価基準日を近づけ、ズレは注記
- 物的一致→地積・接道・形状・用途・築年の整合
- 費用の独立管理→承諾料・造成/撤去費を別勘定に
- 差異表で前提・補正・結論を1枚に要約
鑑定評価の活用範囲の基準
不動産鑑定士の評価は、対外説明や合意形成が難しい局面で有効です。借地権では差額配分法や賃貸事例比較法、底地では収益還元法や事例比較法が用いられます。
評価書は、前提・適用法規・手法・補正根拠・結論を体系化するため、相続・贈与・共有者間売買・借地と底地の同時売買・等価交換などで説得力が増します。
費用や期間は規模・資料量で変動します。目的・評価時点・想定前提(承諾や更新条件等)を事前に合意して依頼すると再現性が高まります。
| 手法 | 概要 | 適した場面 |
|---|---|---|
| 差額配分法 | 自用地を借地/底地へ按分 | 割合の妥当性検証、同時売買の基礎 |
| 収益還元法 | 地代等の収益を現在価値に換算 | 底地の長期保有評価、利回り重視 |
| 事例比較法 | 成約事例を補正し比準 | 市場説明・合意形成の材料 |
税金と相続の制度
借地権割合は、相続・贈与・譲渡(売買)・固定資産税の各論点をつなぐ「共通の物差し」です。路線価方式または倍率方式で自用地としての価額を確定し、借地権割合を掛けて借地権価額、〔1−割合〕で底地価額を把握します。
相続税・贈与税は時点整合が重要で、路線価(毎年7月頃公表の最新分)、倍率(同年度表)、固定資産税評価額(納税通知書の年度)を明示して用います。
負担区分は一般に、土地は地主、建物は借地人が固定資産税を負担。地代の消費税は原則非課税ですが例外があるため個別確認が必要です。
小規模宅地等の特例は土地(宅地等)が対象で、底地は要件次第で検討余地がある一方、借地権は原則対象外という整理が基本です。
【要点】
- 評価の出発点→自用地としての価額を厳密化し按分
- 年度整合→路線価・倍率・固定資産税評価額の年度を統一
- 負担区分→土地は地主/建物は借地人が原則
- 特例の射程→底地は要件次第、借地権は原則対象外
- 専門家と連携→不確実な論点は事前相談
相続税評価額の計算基準
相続税評価は、自用地としての価額を確定→借地権割合を乗じて借地→差引で底地、の順です。路線価地域は、対象路線の単価(円/㎡)×地積(㎡)に、間口・奥行・角地・不整形・私道・セットバックの補正を適用。
倍率地域は固定資産税評価額(年度)×倍率(年度)で同額を算出。区分マンションは敷地権持分で土地部分を按分し、建物は固定資産税評価額等を基に評価します。
貸家建付地や貸家評価では、賃貸割合・借家権割合などの控除的評価が登場しますが、借地権割合と混同しないように整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 評価方式 | 路線価方式/倍率方式(対象地の種別で判定) |
| 年度整合 | 路線価・倍率・固定資産税評価額の年度をそろえる |
| 補正係数 | 間口・奥行・角地・不整形・私道・セットバックの有無 |
| 権利按分 | 借地=自用地×割合/底地=自用地×(1−割合) |
| 資料 | 登記簿、公図・測量図、路線価図、倍率表、写真・現況メモ |
贈与と譲渡の課税の注意点
借地権・底地の無償移転や条件変更は、贈与税・譲渡所得・不動産取得税など複数税目に及びます。借地権の無償譲渡や承諾料免除は、経済的利益の移転としてみなし贈与の可能性。
借地権の有償譲渡は譲渡所得課税が原則で、取得費・譲渡費用・保有期間により税額が変わります。
底地売却は土地の譲渡所得課税となり、借地権の存在による価格低下や明渡費用が収支・課税所得に影響。承諾料・名義変更料・増改築承諾の収入区分は事実関係で変わるため、個別判定が必要です。
- 過少/無償→みなし贈与の可能性→評価根拠を明示
- 承諾料・名義変更料→所得区分は事実関係で変動
- 譲渡所得→取得費・譲渡費用・保有期間で税額が変化
- 契約文言→承諾範囲・対価・費用・税務想定を明記
- 特例の可否→要件と時点の不整合は否認リスク
固定資産税と地代の取扱把握
固定資産税・都市計画税は、土地・家屋に課税されます。一般に、土地は地主、建物は借地人が負担。評価は固定資産税評価額(年度)に基づき、納税通知書の年度・課税標準・住宅用地特例の有無を確認します。
地代は借地人にとって費用(賃貸経営では必要経費)、地主にとって収入。土地の貸付に係る地代は原則非課税(消費税)ですが、駐車場などは課税対象となる場合があるため契約と請求書表示を統一します。
区分の敷地権付き借地は、管理費・修繕積立金(円/月)と地代(円/月)の合算で家計・利回りに反映させます。
| 区分 | 納税主体・評価 | 実務ポイント |
|---|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 土地は地主/建物は借地人/評価は固定資産税評価額 | 年度・課税標準・減額措置を納税通知書で確認 |
| 地代(収入/費用) | 地主=収入/借地人=費用 | 金額・改定条項・更新条件を契約書に明記 |
| 消費税 | 土地貸付の地代は原則非課税(例外あり) | 例外該当の可能性は専門家へ確認 |
小規模宅地特例の適用可否の決め方
小規模宅地等の特例は、一定の宅地等の評価を減額できる制度です。特定居住用(上限330㎡)、特定事業用(上限400㎡)、貸付事業用(上限200㎡)などの類型ごとに要件があり、相続後の継続利用等で可否が決まります。
対象は土地(宅地等)であり、借地権は原則対象外。底地は要件を満たせば検討余地があります。
可否の判断は、生前の利用実態、相続人の居住・事業継続、面積・持分の按分、他特例との関係で変わるため、評価基準日と数値の年度をそろえ、要件を満たさない場合は代替策(換価分割・共有整理等)を検討します。
【確認リスト】
- 対象の整理→土地が対象、借地権は原則対象外
- 要件→利用実態・面積上限・継続性を検証
- 時点整合→評価基準日と各指標の年度を統一
- 併用可否と持分按分→重複適用の可否を明記
- 代替策→要件不充足時の方策を比較
契約と実務の手順
実務は立場で論点が異なります。買主・借地人は名義変更や承諾料、売主・地主は承諾条件や税務、金融機関は権利関係の安定性と残存期間に着目。
まず、契約書・覚書・地代/更新履歴・増改築承諾・満了日・登記の一致を突合し、名義変更・譲渡/転貸・増改築・建替えの条項を読み解きます。
売買を伴う場合は、重要事項説明書・売買契約書に承諾要否・費用負担・引渡しまでのタスクと期日を明記し、地代・固定資産税の精算基準日を設定。対象の種別と取引形態を先に確定して段取りへ反映するとミスが減ります。
- 資料収集→契約・覚書・登記・地代帳・承諾履歴の整理
- 条項確認→名義変更・譲渡/転貸・増改築・更新の条件
- 費用設計→承諾料・登録免許税・仲介/司法書士費用
- 承諾取得→様式・添付・期日・費用負担の確定
- 契約反映→重説・売買契約へ条件を反映
- 引渡管理→承諾完了・精算・登記・引渡しを検収
名義変更と承諾料の相場把握
名義変更は借地人の地位移転に伴う手続で、契約に承諾要否・承諾料の規定があればそれに従い、不明確なら実務の目安で協議します。
一般的には、更地価格×借地権割合×一定割合や、地代の一定月数分といった算式が下敷きになりますが、法定の一律率はありません。親族内/第三者、地代水準、残存期間、増改築・建替えの計画、未払いの有無で水準は上下。
売買と同時進行なら、承諾を停止条件にするか、承諾前提で契約し不成立時の解除条項を置くかでリスク配分が変わります。
| 費用項目 | 算定の考え方 | 実務の確認 |
|---|---|---|
| 名義変更承諾料 | 更地×借地権割合×割合/地代の年数分等 | 残存期間・未払い・親族内/第三者の区別 |
| 譲渡に伴う実費 | 登記費用・司法書士・仲介手数料 | 負担者・按分の明確化 |
| 税務影響 | 譲渡所得・贈与・消費税の区分 | 時点整合と専門家確認 |
更新と再契約の進め方チェック
更新は期間満了時の継続手続です。満了の前から、更新意思・次期期間・地代改定・更新料/承諾料の要否を整理し、合意形成を文書化。
再契約へ切替える提案が出る場合は、条項の簡素化・担保見直し・増改築/譲渡転貸の条件を再設計します。
地代改定は近隣相場・地価動向・税負担・管理コストを根拠づけ、段階的改定も選択肢に。金融機関の担保条件に影響するため、借換え予定があれば条件を事前共有します。
- 満了管理→通知期限・様式を確認
- 期間設定→中途解除・違約条項との整合
- 地代改定→相場・税負担・コストで根拠化
- 更新料/承諾料→金額・時期・領収書記載を統一
- 金融機関→担保条件・借換えの有無を共有
増改築と譲渡承諾の基準
増改築・用途変更は、契約の承諾条項と法規制(建築・都市計画等)の双方を満たす必要があります。計画概要・図面・資金計画・工期・近隣影響・完了後の用途を整理し、承諾条件・費用負担・工事に伴う損害対応を合意書で明記。
用途変更や規模拡大は、避難・防火・構造要件が変わる可能性があるため、所管課の事前相談が有効です。投資用なら、改修後の賃料設定、空室・工期リスク、保険見直しまで同時に設計します。
- 契約の射程→増改築・用途変更・転貸・抵当の承諾
- 審査窓口→建築・都市計画・道路で事前協議
- 合意文書→条件・費用・スケジュール・損害対応
- 投資視点→賃料・工期・空室・保険を同時設計
売買契約と告知条項の注意点
借地・底地の売買は、権利関係の明確化と承諾取得の確実性が核心です。重説には、権利の種類、期間、更新履歴、地代と改定条項、譲渡/転貸/増改築の承諾要否、承諾料の考え方、未承諾計画の有無、名義変更の段取り、地代・固定資産税の精算基準日を記載。
売買契約では、承諾取得を停止条件とするかの有無、承諾不成立時の解除・違約・費用負担、承諾料の額・負担者・期日、承諾書式と添付、引渡しまでのタスク管理を定義します。
| 条項 | 目的 | 記載要点 |
|---|---|---|
| 承諾取得 | 名義変更・譲渡・増改築の承諾を確実化 | 停止条件、期日、様式、添付、費用負担 |
| 精算基準 | 地代・固定資産税・共益費の按分 | 基準日、按分方法、未収/過収の処理 |
| 告知事項 | 将来紛争の予防 | 未承諾計画、滞納、紛争・差押の有無 |
| 解除・違約 | 不成立時の出口を明確化 | 解除事由、違約金、実費負担、期限 |
事例とトラブルの注意点
現場トラブルは「金額根拠の曖昧さ」と「手順の錯綜」で生じます。典型は、名義変更時の承諾料水準、更新条件と地代改定の齟齬、増改築の承諾要否、未登記・無断増築の是正、底地売買に伴う明渡し交渉、再開発・等価交換での配分不一致。
まず立場(地主/借地人/買主/売主)と目的(自用/賃貸/相続)を明確化し、評価基準日の整合(路線価・倍率・固定資産税評価額の年度)をそろえます。
契約・覚書・承諾履歴・地代帳を突合し、承諾料・更新料・増改築計画を文書化してから交渉へ。強制手続は最終手段とし、合理的な計算書とスケジュール案の共有を優先します。
【運用の型】
- 時点の統一→基準日と年度を合わせ、差異は注記で透明化
- 順序の明確化→承諾取得→契約反映→精算・登記の順
- 費用の分離→承諾料と税・手数料は別勘定
- 証拠化→往復書簡・議事録・図面・写真で事実関係を固定
- 専門家連携→税理士・鑑定士・弁護士の三者確認
- 出口の複線化→再契約・譲渡・等価交換・明渡しの比較
承諾料紛争の回避事例
承諾料は一律率がなく、算式(更地×割合×係数/地代年数分)、時点(評価基準日と公表年)、譲渡態様(親族/第三者)、残存期間・未払いの有無が争点になりやすいです。解決の糸口は、双方が受け入れやすい「根拠階段」を先に作ること。
親族内名義変更は第三者より低率、未払い解消を条件に減額、増改築承諾は地代改定や更新条件とパッケージで合意、などが有効でした。金額以外に、支払時期・負担者・不成立時の扱いを明記し、請求・領収の書式を統一します。
- 算式の先行合意→更地×割合×係数 or 地代年数分
- 時点整合→路線価・倍率・評価額の年度統一
- 条件の抱き合わせ→承諾料×更新/改定/工期で総合合意
- 停止条件→承諾取得を停止条件化
- 証憑統一→請求・領収・内訳の表記を一本化
借地非訟と明渡の判断基準
借地非訟は、承諾を不当に拒まれた際に、裁判所で承諾に代わる許可を求める手続です。判断軸は、計画の相当性(安全・用途・規模)、地主の不利益、代償金の相当額、義務違反の有無、交渉経過の合理性。
実務では、任意交渉で代替案(規模縮小・工期調整・代償金)を提示し、不調なら非訟へ。投資・賃貸は、稼働・賃料減少・工期中の機会損まで試算し、金融機関に共有します。
- 前提整理→契約条項・計画概要・安全・周辺影響
- 代償金試算→更地価格・割合・工事影響を反映
- 任意協議→条件・工程を文書化、決裂時の選択肢を明記
- 非訟申立て→申立書・計画図・評価書・交渉記録・写真
- 結論反映→許可内容を承諾書・契約・工程へ反映
再開発と等価交換の比較
再開発はエリア全体の高度利用を目指す一方、手続・期間・合意要件が重くなりがち。等価交換は、権利変換で土地や持分を新築建物の床や持分へ置き換える手法で、追加資金を抑えやすい反面、設計制約や配分設計がカギです。
いずれも「自用地としての価額」と「借地権割合」を共通通貨とし、建設費・販売価格・賃料の事業収支を重ねて配分を設計します。
| 観点 | 再開発 | 等価交換 |
|---|---|---|
| 目的 | エリア最適・公共性の確保 | 個別敷地の価値最大化 |
| 要件 | 制度手続・多数合意が前提 | 関係者の契約合意で実行 |
| 期間・難度 | 長期・高難度 | 中期・中難度 |
| 配分設計 | 容積活用・公共負担を織込む | 評価額と事業収支で床配分 |
| 資金負担 | 公的支援・負担金・合意金の設計 | 追加資金を抑えやすいが比率設計が要 |
未登記や無断増築の是正チェック
未登記建物・無断増築は、名義変更・担保設定・承諾・保険に連鎖し、売買や相続の障害になります。
是正は、登記簿(所有者・地目・地積)、固定資産税納税通知書(年度・課税標準)、建築確認/検査済証、配置・平面図を収集し、現況との不一致を特定。
無断増築があれば、用途・規模・安全性・工期・費用を整理し、建築・都市計画・道路の所管へ事前相談。
承諾料・是正工事費・工期・営業影響を試算し、投資や賃貸では空室損・賃料下振れ・保険条件の見直しまで織り込みます。
特約で是正範囲・費用負担・期日・不成立時の出口を明記し、金融・保険の条件変更は事前共有で資金計画を調整します。
- 資料整合→登記・図面・税資料・検査記録を照合
- 承諾確認→過去の承諾と未承諾事項を洗い出し
- 是正計画→用途・規模・安全性・工期・費用の一覧化
- 行政相談→必要手続・補正内容・期限を確定
- 契約反映→是正範囲・費用負担・期限・不成立時の扱いを特約化
- 金融・保険→担保・保険の条件変更を事前共有
まとめ
借地権割合は、評価・価格・税務・契約をつなぐ中核指標です。はじめに路線価図や倍率表で基準を確認し、契約書・地積・接道・敷地権持分などの前提を突合。
補正率と持分を計算し、承諾料や更新料の水準をレンジで検討します。数値は必ず年度と出所を併記し、判断が分かれる論点は専門家に早めに相談しましょう。


















