再建築不可の空き家は安く見えても、売却・活用・解体・税の順序や下調べを誤ると損失が膨らみます。
本稿では、〈法上の道路と接道の確認〉→〈売却(現況渡し・隣地・買取)〉→〈活用(駐車場等)〉→〈解体/補助金〉→〈税・相続〉の流れで、必要書類と実務の勘どころを平易に整理。迷わず“出口”を決めるための最短ルートを提示します。
再建築不可の空き家を理解する
再建築不可の空き家は、老朽化という建物課題に加え、〈建築基準法上の道路に有効2m以上接していない〉〈前面が2項道路で後退(セットバック)が必要〉〈私道の通行・掘削承諾が未整備〉など敷地由来の制約が重なりやすい状態です。
その帰結として、①建替え・増築が進めにくい、②流通の間口が狭い、③金融・保険・工事で追加条件が付きやすい、という三重のハードルが生じます。
他方で、価格が抑えられがち・工夫次第で小規模に収益化できる、といった面もあります。第一歩は「見える道」ではなく「法上の道路」かどうかの判定。
接道2mの可否、道路幅員、後退線、境界、承諾、インフラ(上下水・電気・ガス)を、役所資料と現地実測の両輪で照合しましょう。
- 判断軸→評価・売却・活用は「道路種別×接道2m×承諾×建物状態」でほぼ決まります。
- 裏付け→道路台帳・位置指定図・測量図・写真を突き合わせ、根拠を文書化。
- 投資目線→出口(売却/活用/解体)を並走で比較し、費用と期間を可視化。
| 論点 | 確認事項 | 影響ポイント |
|---|---|---|
| 道路・接道 | 法区分、接道2m、幅員、後退線 | 建替え可否・配置計画・査定に直結 |
| 私道承諾 | 通行/掘削/占用の書面範囲 | 引込・工事の可否、再販性に直結 |
| 境界・測量 | 筆界、越境、最狭部、高低差 | 価格調整、隣地交渉の要否に影響 |
| 建物状態 | 雨漏り・腐朽・落下/転倒リスク | 安全対策・保険・活用選択に影響 |
- 法上の道路か→図番付き資料で根拠化。
- 最狭部の有効幅→門塀・電柱等を控除して実測。
- 承諾と境界→通行/掘削の書面と筆界の有無を確認。
再建築不可と空き家の基本関係
「再建築不可」は厳密な法用語ではなく、実務で“建物を壊して新築する際に建築確認が原則取りづらい敷地”を指す呼称です。「空き家」は、長期不使用や管理不足で安全・景観に懸念がある建物/敷地の総称。
両者が重なると、①接道・道路種別・後退がネックで建替えに進みにくい、②修繕や引込工事に承諾や動線の制限が生じがち、③流通時に買主層が限定されやすい、という影響が出ます。
対処は二段構え—建物側(安全・管理・保険)と敷地側(位置指定・接道確保・後退・承諾整備)を併走させること。
大事なのはラベルではなく「事実」。道路・接道・承諾・境界・建物状態を第三者が追認できる資料で示せるかが、価格と期間、リスクを左右します。
- 空き家×再建築不可=「建物課題」+「敷地課題」の複合と理解。
- 出口は〈活用〉〈売却〉〈解体〉の三択→費用/期間/合意難度で最適化。
- まずファクト整備(図面・写真・承諾・測量)→交渉の共通土台に。
| 側面 | 主な課題 | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 建物 | 老朽・安全・防犯・保険 | 点検→応急養生→優先補修、賠償でリスク移転 |
| 敷地 | 接道不足・幅員不足・承諾未整備 | 位置指定・後退・隣地取得/地役権・書面化 |
| 流通 | 買主層が狭い・金融/工事制約 | 是正案提示、用途別募集、買取/隣地売却の併用 |
- 「見た目の道」≠道路→法上の道路かで判定。
- 接道2mは“有効幅”で判断→門柱・支線・メーターを控除。
接道と道路種別の影響ポイント
売却・活用・解体の可否は、道路種別と接道条件が決定打です。42条1項道路(道路法の道路、都市計画道路、既存4m以上、位置指定道路等)は、〈幅員4m以上×接道2m以上〉が満たせれば計画自由度が高く、流通もスムーズ。
42条2項道路(みなし道路)は、中心線から2mの後退が前提で、後退部分は原則建築不可扱いとなり有効宅地が減少します。
私道では、法上の道路か否かに加え、通行・掘削・占用の承諾書面がボトルネックになりがち。査定は「道路種別→接道2m→私道承諾→後退量→最狭部障害物」の順に影響が強いので、方針もこれに沿って組み立てると筋が通ります。
- 1項道路→4m以上+2m接道が基本。建替え・配置の裁量が大きい。
- 2項道路→後退前提。後退後の有効面積と外構再配置を先に試算。
- 私道→通行/掘削/占用の常時性を“書面”で担保するのが要。
| 道路種別 | 特徴 | 売却・活用への影響 |
|---|---|---|
| 42条1項 | 原則4m以上、位置指定含む | 接道2mを満たせば建替え・融通が利きやすい |
| 42条2項 | 4m未満、中心後退が必要 | 有効宅地が減少→配置の工夫が必要 |
| 私道(指定外) | 承諾・管理の実態に依存 | 通行/掘削/占用の書面化が鍵 |
- 台帳で「道路種別・中心線・後退線」を特定→図番/作成年月日を記録。
- 現地で最狭部を実測→障害物を寸法入り写真で保存。
売却や活用に効く現地確認
現地確認は「最狭部の有効幅→道路幅員→障害物→承諾→境界→インフラ→建物安全」を一筆書きで点検し、写真+寸法で可視化するのがコツ。幅員は複数点で測り、2項道路の後退線は台帳で裏取り。
私道なら通行/掘削/占用の承諾見込みを管理者・共有者へ確認。境界は現況測量で筆界・越境・高低差を把握し、後退線との関係をスケッチに落とします。
インフラ(上下水・ガス・電気)の引込位置と更新可否、建物は落下・転倒・漏電など危険箇所を優先点検。
これらを「図面・写真・承諾・見積」に束ねると、買主や活用パートナーが同じ結論に達しやすくなり、交渉速度も上がります。
- 接道ライン特定→始点/終点を決め、最狭部を実測して寸法追記。
- 道路幅員を複数点で測定→後退線は台帳で裏付け。
- 私道承諾→通行/掘削/占用を区分し、同意者と書面化の見込みを確認。
- 境界・越境→現況測量と写真で整理、復旧範囲を図示。
- インフラ・安全→引込位置と危険箇所を点検し、応急養生を実施。
| 確認項目 | 見るべき点 | 資料化のポイント |
|---|---|---|
| 最狭部2m | 門塀・支線・メーター控除後の有効幅 | 寸法入り写真、位置スケッチ |
| 道路幅員 | 対向側までの距離を数点で計測 | 後退線根拠図と整合を確認 |
| 承諾 | 通行/掘削/占用を区分し必要同意者を特定 | 承諾書雛形、連絡先一覧、復旧仕様案 |
| 境界・越境 | 杭・塀・樹木・排水位置 | 現況測量図+写真で範囲明示 |
| インフラ/安全 | 桝・配管・電気・ガス、落下/転倒/漏電 | 位置図・点検表・養生記録 |
- メジャー/レーザー、チョーク、寸法追記できるスマホ。
- 案内図、過去図(台帳/測量)、承諾書雛形、養生テープ。
売却の選択肢と進め方を整理する
再建築不可の空き家は「誰に」「どの条件で」売るかが成果を左右します。現況渡しの一般流通、事業者買取、隣地へのピンポイント売却・一部譲渡、自治体の空き家バンク活用など、チャネルごとに準備と強みが異なります。
まず接道・道路種別・後退線・私道承諾・境界(越境含む)・インフラ状態を事実で確定し、説明資料を一式化。
次に、価格×速度×手間のバランスでチャネル選定し、募集設計(価格帯、想定買主、是正の開示)を具体化。現実的な出口から先に試し、反応と費用対効果を見て射程を広げるのがコツです。
- 事実確定→道路・接道2m・境界・承諾・配管を資料化し一括保管。
- チャネル比較→速度・価格・手間を数値で並べ優先順位を決定。
- 募集設計→用途想定と必要是正を明記し、ミスマッチを回避。
| 売却チャネル | 向く状況 | 準備の要点 |
|---|---|---|
| 現況渡し(仲介) | 時間に余裕、価格最大化を狙う | 瑕疵/是正要否の開示、役所照会・測量・写真台帳 |
| 事業者買取 | スピード重視、手間を抑えたい | 最低許容価格の設定、承諾・越境の一次整理 |
| 隣地/一部譲渡 | 接道・形状改善の便益が大きい | 境界確定、復旧範囲と費用分担の合意案 |
| 空き家バンク | 地域ニーズ・DIY層に訴求 | 写真・図面・課題開示、案内動線の整備 |
- 裏取り(役所照会・測量・写真)→チャネル選定→募集設計の順で固める。
現状有姿売却と買取の使い分け
現状有姿は一般の買主に仲介で募集し、基本“今のまま”で引渡す方法。最適な買主に当たれば価格は伸ばせますが、役所照会・私道承諾・境界・インフラ・後退/越境の是正要否などの開示が曖昧だと検討が止まりがちです。
買取は事業者が現況前提で迅速に買い取る方式で、手間や契約不適合責任の負担を抑えつつ短期で現金化できますが、価格は抑え目になりやすい。
判断軸は「速度・価格・手間」。まず買取査定で“底値”を把握し、一定期間は仲介で上振れを狙う二段構えが実務的です。
- 現状有姿→価格は伸びやすいが、開示資料と内見対応の負担が増える。
- 買取→価格は控えめだが、スピード・手離れ・与信リスクの低さが強み。
- 併用→底値を掴みつつ、反応を見て仲介で上積みを狙う。
| 観点 | 現状有姿(仲介) | 事業者買取 |
|---|---|---|
| 価格 | 買主が見つかれば上振れ余地 | 速度と引き換えで抑え目 |
| 速度 | 案内・審査で時間がかかる | 短期決済が可能 |
| 手間/リスク | 開示・調整・修繕交渉の負担 | 手間小さく、責任も限定的 |
- 余裕がある→現状有姿で最大化。急ぐ→買取で確実に現金化。
隣地売却・一部譲渡の実務ポイント
隣地は接道確保・敷地形状改善・駐車動線の確保など便益が大きく、他の買主より高評価を示すことがあります。
肝は、境界確定と復旧条件の明文化。現況測量→筆界確認→越境の有無→復旧範囲(塀・舗装・排水・植栽)を図面と写真で特定し、費用分担と工程、引渡条件(仮設・騒音・通行動線)を合意。
一部譲渡では分筆/地役権の要否、後退線や接道2mの成否、インフラの取り回しを事前整理し、将来の建築・再販に支障のない設計へ。
価格は「相手の便益(建替え可・配置改善・駐車可)」を数値化して提案し、通行地役権のみ等の代替案も用意して交渉余地を確保します。
- 境界・越境→図面×写真で復旧範囲を明確化し、契約書に落とす。
- 手続設計→分筆/地役権/後退の要否を先に洗い出す。
- 価格観→便益の見える化+復旧費用の相殺案で合意を後押し。
| 論点 | 実務ポイント | 資料例 |
|---|---|---|
| 境界・越境 | 測量→筆界確認→復旧範囲の合意 | 現況測量図、筆界確認書、復旧仕様書 |
| 手続設計 | 分筆/地役権/後退の組合せを決定 | 法務局図、役所照会記録、配置案 |
| 価格と便益 | 建替え可・駐車可等の便益を数値化 | 対比表、工程表、費用分担表 |
- 「舗装端=境界」の思い込み→台帳×測量で必ず裏取り。
- 復旧の曖昧さ→塀・舗装・排水の仕様と写真基準を契約に明記。
空き家バンク活用と募集設計のコツ
空き家バンクは、自治体等が情報を集約し、移住者・地域志向・DIY層へマッチングする仕組み。再建築不可でも、条件が合えば検討者に届きやすく、相談窓口や補助メニューと連携しやすいのが利点。
成功の鍵は「募集設計」。接道・道路種別・後退線・私道承諾・越境・インフラ・必要是正と費用目安を、写真・図面・チェックリストで明快に開示。
ターゲット(隣地・地元事業者・移住希望・DIY)ごとに、見せるべき写真(外観全景→最狭部→内部の“使える部分”)と、内見動線・禁止事項・注意点(段差・危険箇所)を整備。
価格は相場+是正コストを前提に、補助金や景観・防火等の地域ルールも併記すると信頼が高まります。
- 課題と対処方針を同時提示(例:後退必要→図と費用帯)。
- 写真は「全景→課題→活用余地」の順で期待値を調整。
- 窓口/地元業者と内見日程・鍵管理を標準化。
| 項目 | 掲載・案内の要点 | 効果を高める工夫 |
|---|---|---|
| 物件情報 | 接道・道路・承諾・越境・インフラを明示 | チェックリスト化しPDF配布 |
| 写真・図面 | 最狭部・後退位置・内部状態の見える化 | 寸法入り写真、簡易配置図を添付 |
| 内見運用 | 動線・禁止事項・安全配慮の提示 | 立会いマニュアル、危険箇所の表示 |
- 課題は隠さず、是正案と費用帯を併記して安心感を醸成。
- ターゲット別にタイトルと説明文を最適化(DIY/隣地など)。
空き家の活用アイデアと収益化
建替えが難しくても、「確認不要/軽微な手続で済む使い方」や「既存建物をそのまま活かす使い方」なら、現実的に収益化を狙えます。
接道・道路種別・後退線・私道承諾・境界・インフラを把握し、できる/できないを切り分けた上で、立地需要(駐車、ストレージ、短期利用等)を簡易調査。
初期費用・運営負担・想定収益を並べ、①土地利用型(駐車場・資材置場)②軽微な建物利用型(物置・ストレージ)③期間限定/用途限定型(撮影、イベント、短期貸し)を候補に検討。
近隣配慮(騒音・動線・照明)と保険(火災・賠償)を先に設計すれば、稼働後のトラブルを抑えられます。
- 現況の事実を資料化→活用の上限を把握。
- 需要×初期費用×運営負担×収益で“割に合う”案から着手。
- 近隣・安全・保険を同時設計→クレームと事故の予防に。
| 活用タイプ | 向く立地・条件 | 初期対応 |
|---|---|---|
| 駐車場/資材置場 | 駅距離中庸・戸建エリア・工務店需要 | 簡易舗装/区画/照明/注意書き整備 |
| 物置/ストレージ | 住宅密集地・小商圏・雨風をしのげる建物 | 防水・施錠・結露対策・賠償保険 |
| 短期貸し/撮影 | レトロ・古民家・静穏路地 | 利用規約・時間帯制限・近隣説明 |
- 必要な承諾/手続(私道通行・掘削、看板、占用など)の有無。
- 安全対策(照明・段差・老朽箇所)と施設賠償の付保。
駐車場・物置・ストレージの実装
駐車場化は、新築確認を伴わず始めやすい定番。月極/時間貸しを選び、区画サイズ(軽/小型/普通)、最狭部、照明、車止め、注意看板(騒音・アイドリング・ゴミ禁止)を整えます。
路地が狭い場合は軽専用やバイク/自転車区画に切替えると稼働が上がります。既存建物を活かす物置・ストレージは、屋根・外壁・床の健全性、雨漏り、結露、換気、施錠、動線の安全を点検。
賃貸規約では危険物/臭気物/現金の保管禁止、利用時間、ゴミ持帰り、破損時の賠償範囲を明記。
料金は周辺相場(1畳/月や区画/月)とアクセスで設定し、立上げ期はキャンペーン(初月無料・長期割)で集客を後押しします。
- 駐車場→区画割(目安2.5m×5.0m)、車止め、ライン、照明、注意掲示を設置。
- バイク/自転車→盗難対策としてチェーンフック・簡易カメラ・夜間照明。
- 物置/ストレージ→防水補修・換気(通気/除湿)・施錠(二重ロック)。
| 項目 | 実装ポイント | 注意点 |
|---|---|---|
| 区画設計 | 最狭部や旋回を実測、軽専用/斜め区画も検討 | 電柱・段差・花壇で有効幅が狭まらないか |
| 防犯 | 照明・人感センサー・簡易カメラ | 近隣窓への光漏れ配慮、死角削減 |
| 規約 | 利用時間・禁止物・鍵管理・賠償範囲 | 苦情窓口と緊急連絡先を明記 |
- 小さく始める→2〜3区画/数室から稼働を見て拡張。
- コストは区画単位で把握→清掃・照明・修繕を月額に織り込む。
短期貸し・撮影利用などの選択肢
短期貸し(時間/日貸し)・撮影利用は、建物の個性を活かしたマネタイズ。レトロ内装や古民家は撮影やワークショップ、ポップアップで需要が見込めますが、近隣配慮は必須。
まず利用時間(例:8:00〜20:00)、最大人数、音量目安、ゴミ処理、喫煙可否、駐車台数を明文化。
安全は床のたわみ・手すり・段差・天井材の剥落を点検し、立入禁止表示や仮設養生で事故予防。掲載は魅力写真に加え、欠点(狭いトイレ、段差、旧式空調)も正直に記載しミスマッチを減らします。
料金は平日/週末・人数・撮影/イベント別に設定し、最低利用時間とキャンセル規定を明確に。近隣へは事前通知(時間・台数)を配布し、苦情窓口を一本化します。
- 用途別ルール(撮影/WS/日貸し)と禁止事項を明確化。
- 老朽箇所の補修、立入禁止表示、夜間照度の確保。
- 予約台帳・鍵管理(キーボックス等)・清掃チェックの標準化。
| 論点 | 実務ポイント | トラブル予防 |
|---|---|---|
| 時間/音 | 音量目安・終了時刻・楽器可否を明示 | 掲示と違反時の対応手順を規約化 |
| 人数/設備 | 最大人数・電源容量・水回り | 容量超過の注意表示、予備電源の準備 |
| 鍵/清掃 | 鍵受渡し、退出時の原状回復 | チェックリストで退去確認を省力化 |
- 音と車両→時間帯・台数制限を先に周知。
- 告知と現地の差を最小化→欠点も写真で明記。
解体・補助金・税制の要点を押さえる
売却や活用と並行して「解体」「補助金」「税制」の3本柱を押さえると意思決定がぶれません。
解体は、現地調査→見積比較→届出→近隣説明→分別・搬出→原状復旧が基本で、費用は構造・規模・立地・アスベスト有無で上下。
補助金は自治体ごとに要件/上限/時期が異なるため、交付決定前の着工は避けるのが鉄則。税制では、住宅があると適用される「住宅用地特例」が、特定空家指定や解体で外れる可能性があり、賦課期日(毎年1月1日)を意識した工程設計が有利に働きます。
工程・費用・補助・税影響を一枚表にし、申請・交付・賦課期日の締切をカレンダー化しましょう。
- 解体→同条件で3社以上見積。構造・分別・搬出条件をそろえる。
- 補助→交付決定前着工NG、相見積、名義/同意の不備に注意。
- 税→住宅用地特例の有無、特定空家リスク、賦課期日を確認。
| 領域 | 要点 | 初手 |
|---|---|---|
| 解体 | 構造・面積・接道・アスベストで費用変動 | 現地立会い、同条件見積 |
| 補助金 | 対象・上限・時期が自治体で異なる | 要項入手→交付決定前着工NG確認 |
| 税制 | 住宅用地特例/賦課期日の影響 | 年度またぎの工程設計 |
- 工程表に〈見積〉〈補助申請〉〈賦課期日〉を統合管理。
- 現況写真・平面・面積・構造・危険箇所を根拠資料に束ねる。
解体の見積・工程と費用の目安
解体費は「構造(木造/軽量鉄骨/RC)」「延床」「搬出条件(間口・道路幅・車両可否)」「分別手間」「アスベスト」で大きく変動。
目安は木造約3〜5万円/坪、軽量鉄骨約4〜7万円/坪、RC約7〜12万円/坪。狭小間口・密集地・残置多・地中障害があると上振れ。
工程は、①現地調査(境界・越境・インフラ止栓)②見積(仮設・養生・分別・運搬・処分の内訳比較)③届出(建設リサイクル法規模、アスベスト事前調査/届出)④近隣説明⑤分別解体・搬出⑥整地・写真提出が定番。
比較の肝は「同条件化」—残置処分、仮設(足場/防音シート)、重機有無、養生範囲、追加費の発生条件(地中障害)を合わせましょう。
- 注目内訳→仮設養生、分別、運搬距離、処分単価、整地仕様。
- リスク→アスベスト、地中障害、残置量、道路幅不足。
- 近隣対策→工期・時間帯・連絡先掲示、粉じん/振動対策。
| 構造 | 費用目安 | 増額要因 |
|---|---|---|
| 木造 | 3〜5万円/坪 | 狭小・残置多・手壊し・搬出距離長 |
| 軽量鉄骨 | 4〜7万円/坪 | 金物多・切断作業増 |
| RC造 | 7〜12万円/坪 | はつり手間・重機制限・処分費 |
- 同条件化(残置/養生/運搬距離/整地/追加条件)。
- 着工前後・分別中・整地後の写真で実績照合。
補助金・助成金の探し方と申請準備
除却補助は自治体メニューが中心(名称は「老朽空家等除却」「危険空家除却」など)。上限/補助率(例:1/3〜2/3)、対象要件(老朽度・特定空家相当・接道/危険度・市税滞納なし等)、対象経費(本体/付帯)の線引きは自治体で異なります。
最短手順は、要項入手→対象/対象外・上限・期間の精読→窓口で適合性と必要書類を確認→現地写真・見積・図面・登記事項を整えて交付申請。
留意は「交付決定前着工は原則対象外」「相見積が条件の自治体あり」「名義や同意不足の差戻し」。申請〜交付〜実績報告のスケジュールを売却/解体と同期させ、待機コストを抑えましょう。
- 要項→対象要件・上限額・対象経費・スケジュール。
- 書類→登記事項・身分証・現況写真・見積・図面・税滞納無証明等。
- 流れ→交付決定→契約→着工→中間/完了→実績報告→交付請求。
| 段階 | やること | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 事前確認 | 対象/対象外の精読、適合性の照会 | 交付前着工、名義相違 |
| 交付申請 | 必要書類提出、見積要件の確認 | 相見積不足、写真条件不備 |
| 工事〜実績 | 着工届、写真、領収整理 | 撮影漏れ、名義違い、未届変更 |
- 交付“決定書”日付を基準に工程化→決定前着工は避ける。
- 写真チェックリスト(正面・側面・内部・分別・整地後)で漏れ防止。
固定資産税特例と評価の基礎知識
税で要となるのは「住宅用地特例」と「賦課期日(毎年1月1日)」。住宅がある土地は小規模住宅用地(〜200㎡)で課税標準の大幅軽減を受けますが、「特定空家等」指定や更地化で翌年度から外れる可能性。
工程では賦課期日を踏まえ、年内/翌年解体で翌年度税額がどう変わるか試算を。
評価は、固定資産税評価額・課税明細・路線価・地積・現況(セットバック・私道負担)を突き合わせ、最低限の管理や危険箇所是正で特定空家回避を先行。
固定資産税と都市計画税の二本立てにも留意し、金融・補助スケジュールと併せて解体時期を決めましょう。
- 住宅用地特例→建物ありで軽減。特定空家や更地化で喪失の可能性。
- 賦課期日→1/1現況が年度課税を決定→年跨ぎを工程に反映。
- 評価の突合→評価額・路線価・面積・私道負担・後退の要否を整合。
| 現況 | 住宅用地特例 | 実務の着眼点 |
|---|---|---|
| 住宅あり | 小規模で軽減大 | 維持管理で特定空家指定を避ける |
| 特定空家等 | 特例喪失の恐れ | 危険箇所の是正・指導履行 |
| 更地 | 原則特例なし | 解体時期と翌年度税額を試算、活用計画と連動 |
- 解体タイミングで翌年度税が変動→賦課期日ベースで工程設計。
- 特定空家指定の回避→最低限の管理と危険箇所の是正を優先。
相続・登記・管理でリスクを減らす
相続・登記・日常管理のどれかが滞ると、売却・活用・解体の意思決定は止まり、固定費(固定資産税・保険・草刈り等)だけが積み上がります。
まず、権利関係を「誰が・どれだけ・どの方法で」持っているか見える化し、相続登記の進捗と連絡体制(代表者・決裁方法)を決定。
並行して、危険箇所(瓦落下、傾いた塀、腐朽庇)の点検、草木・害虫・不法投棄対策、郵便管理をルーティン化。
自治体の指導基準に照らし、管理不全や「特定空家等」に該当しない状態を維持しましょう。
将来の出口に備え、道路・接道・後退・承諾・測量・写真・見積・補助書類を「探せる単位」でファイル化すると、意思決定の速度が変わります。
- 権利の見える化→相続関係図・持分・連絡体制・決裁ルールを明確に。
- 管理の定例化→危険箇所点検・草木剪定・郵便転送・巡回記録を月次運用。
- 資料の一元化→道路/境界/承諾/見積/写真を分類保管、更新日を記録。
| 領域 | まずやること | 予防ポイント |
|---|---|---|
| 権利・登記 | 相続関係図、分割方針の共有 | 代表者選任、締切と合意プロセスを文書化 |
| 日常管理 | 危険箇所チェック、草木、郵便転送 | 写真で履歴管理、是正の優先順位化 |
| 資料管理 | 道路・境界・承諾・測量・見積の整理 | フォルダ構成とファイル命名の統一 |
- 相続・持分と連絡体制を確定→意思決定を一本化。
- 危険箇所の是正と巡回ルール→「特定空家」リスクを低減。
- 出口用資料を一式ファイル化→更新日と担当を記載。
相続登記と権利関係の整え方
詰まりやすいのは「誰が意思決定できるか不明確」な点。戸籍・除籍・改製原戸籍を収集し、相続関係説明図で相続人(法定・代襲)を確定。相続財産一覧を作り、当該不動産の登記事項で現名義と相続後名義の差を明確化。
遺言があれば検認/公正証書の確認、なければ遺産分割協議書で持分割合と管理・費用負担・代表者(窓口)を決定。
相続登記の申請書類(登記原因証明情報、相関図、固定資産評価証明書等)を整え法務局へ。共有のままだと売却・承諾・解体のたびに署名押印が必要で実務が重くなります。
将来の出口を見据え、代表者(管理人)選任や持分整理(少数持分の扱い)を初期合意しておくと手戻りを抑えられます。
- 相続人確定→戸籍一式収集、相関図で可視化。
- 方針決定→遺言の有無を確認、なければ協議書で持分・代表者を決定。
- 登記申請→登記事項・評価証明・原因証明情報を準備し申請。
| 段階 | やること | コツ |
|---|---|---|
| 相続人確定 | 戸籍収集・相関図作成 | 代襲相続の有無を丁寧に確認 |
| 協議・合意 | 協議書で持分/代表者を明記 | 管理・費用分担・連絡手順を条文化 |
| 登記申請 | 原因証明・評価証明を添付 | 事前に法務局で下書き確認 |
- 「誰が決めるか」を先に決め、決裁ルールを合意書に明記。
- 共有で運用する場合は、売却・解体の同意取得方法も条文化。
管理不全や特定空家の回避策
路地が狭い・袋地といった立地特性から、倒壊・落下・雑草・害虫・不法投棄・放火リスクが高まりやすいのが再建築不可の空き家。
管理不全が続くと、助言→指導→勧告→命令と段階が進み、住宅用地特例が外れる可能性も。回避の骨子は「定期点検」と「即応是正」。
屋根・外壁・庇・塀・樋・開口部の破損、傾き/ぐらつき、越境枝・景観悪化、郵便滞留、防犯/照明を点検票で管理し、危険箇所は仮設養生→修繕を優先。
外周は段差養生、注意看板、夜間照明、火気・喫煙注意、鍵・柵の施錠を実施。近隣には連絡先を周知し、苦情受付の一本化で初動を早く。
自治体の空家対策窓口を活用し、基準への自己点検を定例化しましょう。
- 点検→屋根・外壁・庇・塀・通路・照明・郵便・越境を定期確認。
- 是正→落下/転倒/漏電など高リスクから仮設→修繕。
- 周知→近隣・自治体窓口・巡回業者の連絡先を明記し、窓口を一本化。
| 領域 | チェック項目 | 運用ヒント |
|---|---|---|
| 建物 | 屋根/庇/外壁の破損、傾き、雨漏り | 養生→修繕の優先順位を記録 |
| 外周 | 塀のぐらつき、段差、夜間の暗部 | 養生材・照明追加、注意看板 |
| 防犯 | 施錠、侵入痕、郵便滞留、放置物 | 鍵管理表、郵便転送、巡回頻度設定 |
- 危険・景観・衛生の三点を優先是正し、写真でエビデンス化。
- 自治体の点検票に沿って自己点検→適合状況を可視化。
書面・写真で残す調査と記録化
相続・売却・活用・解体の成功率は、「第三者が同じ結論に至れる資料」があるかで決まります。
道路台帳写し・位置指定図・後退線根拠、現況測量図(境界・最狭部・高低差)、通行/掘削/占用承諾、インフラ位置(上下水・ガス・電気・桝)を一式保管。
写真は「全景→接道最狭部→外周→内部→危険箇所→是正後」の順で、撮影日/場所/寸法注記を入れて台帳化。
点検・是正はチェックリストで「いつ・誰が・何を確認/実施」を残し、見積・請求・領収は工事項目ごとに紐づけ。
共有者や将来の買主・検査機関に、資料だけで判断できる状態を作ることが、交渉スピードと価格安定に直結します。
- 写真台帳→撮影日・場所・寸法・状況を統一フォーマットで管理。
- 図面/承諾→原本/写しと図番・更新日を併記し、紙+PDFで二重保管。
- 点検/是正→チェックリストと見積/領収を紐づけ、履歴を継続更新。
| 資料群 | 内容 | 管理のコツ |
|---|---|---|
| 道路・境界 | 道路台帳、位置指定図、測量図、後退線根拠 | 図番/更新日/担当名を記録、紙+PDFで保管 |
| 承諾・協定 | 通行/掘削/占用承諾、管理協定、鍵運用規程 | 有効期限・範囲・連絡先を冒頭に明記 |
| 点検・是正 | 点検票、写真台帳、見積/請求/領収 | 工事項目ごとにフォルダ分け、年次棚卸し |
- “第三者が同じ結論”を目標に、証拠と根拠を一枚ずつ揃える。
- 更新履歴(いつ・誰が・何を更新)を残し、継続管理の再現性を高める。
まとめ
再建築不可の空き家は、①接道・道路の事実確認、②出口の選定(売却/活用/解体)、③補助金・税・相続の整理、という三段構えで迷いが減ります。
根拠資料(道路台帳・測量・写真)を整え、隣地/買取/活用案を並行比較。費用と期間を見える化し、納得のいく決断へつなげましょう。


















