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既存不適格エレベーター入門|見分け方と費用・補助金・売買の注意点5つ

マンションや事務所のエレベーターが「既存不適格かも?」と不安な方向けに、意味と見分け方、必要書類の確認、必須安全装置、改修費用と補助金、売買・融資への影響までをやさしく整理。

購入前・管理中の失敗を防ぐチェックのコツも紹介。読み終えれば、まず何を確認しどこに相談すべきかが分かります。

 

既存不適格とエレベーターの基礎

既存不適格は、当時の法令に適合して建てられた建物が、その後の法改正で現在の基準に合わなくなった状態を指します。違法建築とは異なり、直ちに是正命令の対象になるものではありませんが、増改築や用途変更の際は適用関係の整理が必要です。

エレベーター(昇降機)は建築基準法の定期検査報告(年1回が一般的)対象で、所有者・管理者は有資格者の検査と特定行政庁への報告義務があります。

 

戸開走行保護装置(扉が開いたままの走行を止める装置)や地震時管制運転装置の義務付けは、原則として2009年9月28日以降に着工したエレベーターが対象で、既設機は努力・促進扱いです(更新・改修時に要検討)。

マンション売買では管理組合の点検記録や長期修繕計画、賃貸オフィスでは保守契約と年次報告の有無、相続では検査済証や図面の所在が実務の起点になります。

 

  • 既存不適格=建築時は適法、違法建築とは別概念。
  • エレベーターは定期検査報告の対象→年次点検と報告が前提。
  • 2009年以降着工分は安全装置が義務、既設は設置促進が基本。
  • 取引実務では検査済証・点検記録・修繕計画の所在確認が出発点。

 

既存不適格の意味(昔の基準)の把握

既存不適格は「建築時は適法だが、のちの基準改正で不適合になった状態」です。建築基準法には、既存不適格部分を一定条件で継続容認する緩和があり、増築・用途変更等の際に「どの規定が既存不適格か」を現況調査で特定し、当該規定のみを既存扱いとして取り扱う考え方が示されています。

実務では、建物全体ではなく規定ごとに適用を整理します。エレベーターについても、最新の技術基準(例:戸開走行保護装置や地震時管制運転装置)とのギャップを把握し、更新・改修計画に反映します。

 

区分マンションの住戸購入では、建物本体の既存不適格(耐震・避難・設備)と、共用部エレベーターの安全装置有無は別に確認します。

戸建てで屋内昇降機を後付けした例では、用途や構造条件により適用条項が変わるため、設計者・特定行政庁と早期に整合を取ると安全です。

 

ここだけ押さえる
  • 既存不適格=建築時適法。違反扱いではない。
  • 増改築や用途変更時は規定ごとに適用整理。
  • エレベーターは最新基準との差分を把握し計画に反映。

 

違法かどうかの違いの比較

既存不適格と違法建築は、定義・是正の要否・取引や融資への影響が大きく異なります。既存不適格は、当時の確認・検査に適合した上でその後の改正で外れた状態であり、違法建築は建築時点で基準に違反したものです。

実務では、価格・融資・保険の判断が分かれるため、取引前に「どちらか」を明確にします。マンション売買では、エレベーターの安全装置の有無や定期検査報告の履行状況が評価材料になります。

賃貸オフィスのオーナーは、是正命令リスクの有無と改修計画の見通しをテナント募集資料に反映させると安心です。

 

観点 既存不適格 違法建築
定義 建築時は適法→改正で不適合 建築時から基準に違反
是正命令 原則対象外(増改築等で適用整理) 対象(是正・使用制限の可能性)
取引影響 資料整備次第で売買・融資は可能 売買・融資が困難になりやすい
エレベーター 年次の定期検査報告と安全装置の差分把握 法令不適合は是正が前提

 

必要書類(検査済証など)のチェック

実務の出発点は、建築確認済証(設計が法適合と認められた証)と検査済証(完了検査に合格した証)の所在確認です。

完了検査申請は工事完了日から原則4日以内に行い、受理から7日以内に検査が実施され、合格で検査済証が交付されます。

 

エレベーターは「昇降機の定期検査報告」が別途必要で、検査員の資格・検査項目・写真添付が定められています。

売買では重要事項説明書に記載する根拠資料として、台帳記載事項証明書や建築計画概要書で代替確認を行う場合もあります。

投資用マンションの購入者は、管理組合に点検記録・保守契約(年次点検頻度・部品交換履歴)・長期修繕計画の写しを請求し、費用負担の将来像を把握すると安心です。

 

  • 確認済証・検査済証の所在→台帳や概要書で補完も可。
  • 昇降機は定期検査報告の写し・写真台帳の有無を確認。
  • 管理組合の修繕計画と保守契約の条件を照合。
  • 賃貸・相続では引継ぎ資料の目録化→紛失リスクを低減。

 

所有者と管理者の役割の注意点

所有者・管理者(区分所有建物では管理組合)は、建築基準法に基づき建物の維持保全義務を負います。

エレベーターは、所有者・管理者の責任で有資格者の検査を受け、特定行政庁に毎年報告するのが原則です。管理会社に委託しても、最終責任は所有者側にあります。

 

装置の更新判断は、法定基準・メーカー推奨年・保守履歴・事故リスク・費用対効果で整理し、総会での意思決定と長期修繕計画への反映が重要です。

オフィス賃貸では、テナントへの事前周知(停止時間・代替動線)とBCP整備が信頼につながります。地方自治体や所管行政庁ごとに様式・審査運用が異なるため、提出書類や期限は事前に確認しましょう。

 

役割と責任の注意点
  • 委託しても最終責任は所有者・管理者側。
  • 定期検査報告の未実施は行政指導等の対象。
  • 更新は安全・費用・停止影響・補助制度を総合判断。

 

該当判断と確認の手順

既存不適格かどうかの判断は、資料の有無を確認し、現況と法令の差分を丁寧に洗い出すことから始めます。

まず、建築確認済証・検査済証(完了検査に合格した証)・図面一式・台帳記載事項証明書・建築計画概要書をそろえ、共用部のエレベーターについては昇降機の定期検査報告書や保守契約書も集めます。

 

次に、建築時点の基準と現行基準を照合し、どの規定が「既存不適格」に該当するかを規定ごとに整理します。

マンションの区分購入では管理組合の長期修繕計画や点検記録、賃貸オフィスではテナントへの説明資料、相続の戸建てで屋内昇降機がある場合は用途・構造の条件を合わせて確認します。

 

差分が見えたら、安全性・費用・工期・停止影響の観点で改修要否を検討し、売買や融資では価格・条件・特約への反映を図ります。

提出様式や審査の取り扱いは自治体で運用が異なるため、担当窓口に早めに相談するとスムーズです。

 

  1. 関係資料の収集→確認済証・検査済証・図面・概要書・点検記録を目録化。
  2. 現況の把握→用途・規模・避難動線・エレベーターの型式と設備を確認。
  3. 法令差分の整理→建築時基準と現行基準のギャップを規定ごとに特定。
  4. 是正方針の検討→安全・費用・停止影響・補助制度を総合評価。
  5. 取引・融資への反映→価格・条件・特約・説明資料に落とし込み。

 

図面と検査済証の有無のチェック

最初に確認するのは、図面と検査済証の所在です。図面があれば、配置図・平面図・断面図でエレベーターの位置や台数、昇降路・機械室・避難経路の関係を把握できます。

検査済証は建築物が完了検査に合格したことを示し、確認済証は設計が適合と判断された段階の証です。紛失している場合は、役所で台帳記載事項証明書や建築計画概要書の写しを取得して補完します。

 

エレベーターは昇降機の定期検査報告書や写真台帳、点検報告書(交換履歴を含む)が重要で、区分マンションの売買では管理組合から写しを入手すると費用見通しが立てやすくなります。

賃貸や相続では、引継ぎ資料の目録化(原本→写し→入手先の順)を行い、欠落資料がある場合は取得の可否と代替手段を整理します。

 

項目 内容
図面一式 配置・平面・断面でEV位置・避難動線・機械室の関係を確認。
建築確認済証 設計段階の適合証。確認番号・年月日・用途・規模を照合。
検査済証 完了検査合格の証。交付日と使用開始時期、計画との相違を確認。
台帳・概要書 紛失時の代替資料。用途・階数・延床・法適合の概略を確認。
昇降機定期検査報告 検査員資格・検査日・不備指摘・是正状況・写真台帳の有無を確認。
保守契約・交換履歴 点検頻度・部品交換・故障履歴→今後の費用・停止影響を推定。

 

建築基準の改正とのズレの把握

既存不適格の判定では、建築時点の法令と現行の法令・告示・技術基準を並べ、どの条項に差分があるかを項目別に切り分けます。

エレベーターは、安全装置(例:戸開走行保護装置=扉が開いたまま走行しない装置、地震時管制運転装置=地震時に安全階へ退避する装置)や非常用設備、出入口幅・かご寸法・昇降路の構造、停電・地震時の対応などが確認ポイントです。

 

マンションの区分購入では「共用部の基準差分」が将来の修繕計画や保険条件に影響する可能性があり、賃貸オフィスではテナントの業務継続(BCP)に直結します。

戸建てで屋内昇降機を後付けしたケースは、用途や構造上の要件によって適用範囲が変わるため、設計者・行政庁との事前協議で整合を取るのが安全です。

 

ズレ判定のコツ
  • 建築時と現行を「条項ごと」に並べる→論点の取りこぼしを防止。
  • 安全装置・避難・構造・内装の順で確認→優先度の高い安全から。
  • 差分は「是正要否」「時期」「費用目安」「停止影響」で整理。

 

増改築や用途の変更時の注意点

増築・大規模の改修・用途変更を行う場合、既存不適格部分に対して遡及的に適合が求められる範囲が広がることがあります。

例えば、エレベーター本体の大規模更新や主要部の取り替えでは、確認申請や審査で現行基準との整合を問われやすく、停止期間や仮設動線の計画も必要です。

 

マンションの共用部工事は管理規約に基づく総会決議と長期修繕計画の見直しが前提となり、賃貸オフィスではテナントとの工事協議(騒音・振動・動線)が信頼に直結します。

相続物件で用途を変更する際は、収益化の前に適合性・費用・工期の見通しを試算し、融資条件に影響する点を金融機関と事前に共有すると安心です。解釈や必要書類は自治体で差が出るため、所管窓口の指示に従って準備を進めます。

 

  • 工事の規模・内容で適用条項が変化→早期に設計者・行政庁と協議。
  • 停止期間・代替動線・安全対策を同時に計画→テナント・居住者へ周知。
  • 管理規約・総会決議・長期修繕計画の整合→費用分担と合意形成を明確化。
  • 融資・保険の条件影響を事前確認→金利・担保評価・特約に反映。

 

定期検査と点検記録の提出状況のチェック

エレベーターは、所有者・管理者が有資格者による検査を受け、建築基準法に基づく定期報告(一般的に年1回)を所管行政庁へ提出します。

売買・賃貸・相続のいずれでも、直近の報告書と指摘事項の是正状況、写真台帳、保守契約の条件(点検頻度・部品交換・緊急対応)を確認し、将来の費用と停止リスクを見積もります。

 

区分マンションでの住戸購入なら、管理組合が保有する過去の点検・修繕履歴と長期修繕計画を照合し、特に安全装置の有無と更新予定年を把握すると安心です。

賃貸オフィスのオーナーは、テナントのBCP観点で、停電・地震時の運転モード、非常時の救出手順の訓練記録の有無も併せて確認します。提出様式や期限は自治体で運用差があるため、最新の指示に従ってください。

 

観点 確認ポイント 実務での着眼点
報告義務 年次の定期報告の提出有無・期限遵守 未提出は行政指導の可能性→是正計画と提出予定を確認
記録類 点検記録・写真台帳・指摘事項の是正記録 直近数年分の連続性→費用推移と再発傾向を把握
保守契約 点検頻度・部品交換・緊急出動条件 停止時の対応時間・代替動線→テナント周知の有無
安全装置 戸開走行保護・地震時管制運転の実装 未実装なら更新計画と費用目安→補助制度の適用可否

 

安全装置と改修の方針

エレベーターの安全装置は、事故の未然防止と非常時の被害縮小を目的とし、更新・改修では「安全性→停止影響→費用→補助制度→合意形成」の順で計画すると迷いにくいです。

戸開走行保護装置(扉が開いたまま走行しない仕組み)や地震時管制運転装置(地震時に安全階へ退避する仕組み)は、既設機でも後付けや制御盤更新で対応できる場合があります。

 

区分マンションの共用部では、管理規約と長期修繕計画との整合が前提となり、総会決議や工事期間中の動線確保が重要です。

賃貸オフィスのオーナーは、テナントの業務継続(BCP)の観点で停止時間の短縮や代替動線の周知計画を合わせて提示すると、信頼と稼働率の維持につながります。

費用相場は機種・年式・台数・現場条件で大きく変わるため、「実機調査→概算→詳細見積→工事計画」の段階整理がおすすめです。

 

  • 優先順位は安全性→停止影響→費用→補助制度→合意形成の順。
  • 後付け可否は制御盤・戸閉機・センサーの世代で判断→実機調査が前提。
  • マンションは総会決議・長期修繕計画・費用分担を明確化。
  • オフィスはテナント説明とBCP整備→停止時間の見える化。
  • 費用は現場差が大→見積の時点(年度)と前提条件を併記。

 

戸開走行保護装置(扉開で停止)の導入

戸開走行走行保護装置は、戸が閉じていないと制御が走行を許可しない仕組みです。既設機では、戸閉センサーやドアロック、制御盤(コントローラ)の更新を組み合わせて導入します。

区分マンションでは共用部工事のため、工事中の停止時間・仮設動線・高齢者や車椅子利用者の代替手段を事前に確保すると安心です。

賃貸オフィスでは夜間・休日の工事や複数台の交互運転で稼働率を確保します。費用は部品構成・制御世代で幅が出ますが、見積の時点(例:2023〜2025年の実務見積例)を明示し、部品単価・人件費・仮設費・試験費を分けて比較すると合意形成が早まります。

 

観点 確認ポイント 実務メモ(相場は見積例の時点併記)
適用可否 制御盤の世代・戸閉機・ドアロック構成 古い世代は制御盤更新を伴うケース多い
安全性能 開戸時の走行抑止・冗長性・自己診断 センサー二重化や故障時フェールセーフを確認
停止影響 工期・昼夜切替・交互運転の可否 複数台なら1台ずつ更新→稼働率を維持
費用構成 部品・工賃・仮設・試験・調整 同時に戸閉機更新で故障減と体感改善の例あり
書類 仕様書・試験成績・引渡書類 点検記録と写真台帳に反映→次回更新の根拠に

 

地震時管制運転装置(安全階へ)の整備

地震時管制運転装置は、地震を感知すると最寄り階または事前に指定した安全階に停止・退避させ、扉を開放して運転を停止する仕組みです。

検知方式(地震計の設置・制御盤組込・建物側センサー連動)や、二次震動・余震時の再起動条件を含め、建物側の防災設備(非常用発電・火災報知・防災盤)とのインターフェースを整理します。

 

マンションでは要配慮者の避難計画、オフィスでは在館者の分散退避経路と館内アナウンスの連携が要点です。

費用は検知装置の有無と制御盤の世代で差が出るため、同時に地震感知器の校正・固定方法・メンテ周期を見直すと、誤作動・不作動のリスクを下げられます。

 

整備の押さえどころ(実務目安)
  • 検知→退避→停止→再開の手順を文書化し訓練を実施。
  • 非常電源や館内放送・防災盤との連動を試験で確認。
  • 地震計の設置位置・固定・校正周期を保守計画に明記。

 

閉じ込め対策と救出対応の改善

閉じ込めは、停電・地震・機器故障などで発生し、心理的負荷と二次的な健康リスクを伴います。改善の基本は、救出までの時間短縮と在館者の安心確保です。

管理側は、遠隔監視(通報ボタンの通報先・応答時間)、非常用インターホンの通話品質、館内放送との連携、エレベーター内の案内表示(救出までの流れ・連絡先)を点検します。

 

マンションでは管理人・理事・保守会社の呼び出し手順と鍵の所在、オフィスでは受付・警備・保守会社の連絡網と夜間体制を整えます。

高齢者・乳幼児・障害のある方が多い施設は、医療・介助の連携先を名簿化し、訓練で確認すると安心です。

 

  • 通報→初動→救出の手順を図式化→共有と訓練を反復。
  • 通話品質・位置情報・監視の死角を点検→改善タスク化。
  • 停電時の非常照明・換気・温度上昇対策を確認。
  • 夜間・休日の到着時間と代替動線を掲示→不安を軽減。
  • 救出後の再起動条件と報告書式を標準化→再発防止。

 

保守の契約(点検含む)の比較

保守契約は、おおまかにフルメンテナンス(部品代込み)とPOG(部品代別・点検中心)、スポット(都度)に分かれます。

フルメンテは予算が読みやすく停止時間を短くできる一方、長期で割高になる場合があります。POGは年次コストを抑えやすい反面、故障時の部品費で想定外の支出が生じることがあります。

 

スポットは小規模物件や使用頻度が低い場合に適しますが、緊急対応のSLA(到着時間・復旧時間)の取り決めが弱いとリスクが高まります。

マンションは長期修繕計画との整合、オフィスはテナントのSLA要求水準に合わせ、複数社で同条件比較(時点・台数・運転時間・環境条件)を行うことが重要です。

 

契約形態 向いているケース 留意点(比較観点)
フルメンテ 稼働率重視・複数台運用・停止許容が小さい 年額費用は高めだがSLAが厚い/停止影響を最小化
POG 年次コスト抑制・更新計画が明確・突発費許容 部品費が別建て→長期の総額試算と故障率の前提が鍵
スポット 使用頻度が低い・単独台・予算制約が大きい 初動の遅延リスク→到着時間・代替動線を明文化
共通SLA 復旧時間・夜間休日対応・代替機の有無 通報窓口の24時間性・到着基準・部品在庫体制を比較

 

費用相場と補助金の制度

エレベーターの費用検討は、◯◯装置の有無や年式だけでなく、建物条件(台数・停止階・機械室の有無・搬入経路)で大きく変わります。

改修は一般に「安全装置の後付け→主要部更新(制御盤・戸閉機など)→全面的なモダニゼーション(かご・制御・巻上機等一体)」の順に高額化します。

 

見積比較では、部材費・人工(人件費)・仮設費(養生・荷揚げ)・試験調整費・諸経費を分けて確認し、見積の時点と前提条件(年式・使用時間・環境)を必ず併記します。

補助金は年度で要件や上限が変わり、エレベーター単体は対象外となる事例も多いため、事前相談→事前申請→交付決定後着工の流れを守ることが重要です。

保守費用は契約形態(フルメンテ/POG/スポット)や点検頻度で差が出ます。会計上は建物附属設備として減価償却(=資産の価値を耐用年数に応じて費用化)し、法人・個人事業の損金(経費)算入効果があります。

 

  • 費用は「装置の世代×現場条件」で大きく変動→前提条件を明示。
  • 見積は内訳と時点を併記→横並び比較で意思決定を平準化。
  • 補助金は事前申請が原則→交付決定前の着工は対象外になりがち。
  • 保守契約はSLA(到着・復旧時間)の明文化→停止リスクを可視化。

 

改修費の目安金額(概算帯)の把握

改修費は装置の世代・制御方式・搬入制約で±50%以上の振れ幅が出ます。安全装置のみの追加と、主要部を含む更新、全面的なモダニゼーションではコストも停止影響も異なります。

以下は都市部の実務見積の例(見積時点:2023〜2025年の事例集計、台数1基・9人乗り相当・機械室有の一般的条件)。

地方・高層・特殊仕様は別途上振れしやすいため、必ず現地調査のうえ複数社で同条件比較を行います。

 

区分 概算帯(実務見積の例) 前提と留意点
安全装置の後付け 数十万円台〜数百万円台 戸開走行保護・地震時管制等。制御盤世代により追加工事が発生。
主要部更新 数百万円台〜1,000万円台前半 制御盤・戸閉機・センサー更新等。停止期間短縮の計画が鍵。
モダニゼーション 1,000万円台中盤〜2,000万円台 かご・制御・巻上機等を包括更新。意匠・快適性も同時改善。
全撤去・新設 2,000万円台〜3,000万円台超 昇降路改修や意匠変更を伴う場合に上振れ。仮設動線が重要。

 

保守の費用と点検回数の比較

保守費は契約形態で性格が異なります。フルメンテナンス(部品代込み)は年額が高めでも停止時の復旧が早く、予算が読みやすい点が利点です。

POG(部品代別・点検中心)は年額を抑えやすい一方、故障時に部品費の突発支出が発生します。スポット(都度・臨時)は使用頻度が低い小規模物件向けですが、緊急出動の初動が弱いとテナント・入居者のストレスにつながります。

 

点検回数は月例・隔月・四半期などの設定があり、使用時間や環境(粉塵・温湿度)で最適回数が変わります。

法定の定期検査報告(年1回)とは別に、管理側の自主点検を重ねると不具合の早期発見につながります。費用は台数割引・長期契約割引の有無で差が出るため、同一前提での横並び表を作ると比較が容易です。

 

保守費の見方(実務の押さえどころ)
  • 契約形態×点検回数×SLAをセットで比較→停止リスクを見える化。
  • 夜間・休日の到着基準と在庫部品の体制を明文化→復旧時間を短縮。
  • 費用推移(3〜5年)と部品交換履歴のグラフ化→劣化の見える化。

 

自治体の補助と税優遇の条件のチェック

補助制度は、マンション共用部の長寿命化・バリアフリー・防災力向上等の枠組みで整備されるケースが多く、エレベーター単体は対象外または装置要件が厳しいことがあります。

一般に「対象経費の一部(例:1/3〜1/2)」「上限額設定」「事前申請・交付決定後着工」「完了実績報告」が基本です(実務要綱の例:2023〜2025年)。

 

税制は、改修費の資本的支出分を建物附属設備として減価償却し、損金算入の節税効果が見込めます。

固定資産税(償却資産=事業用設備に課税)の取り扱い、耐震改修に対する固定資産税減額の制度は「居住部分の耐震改修」が中心で、エレベーター安全装置単体は対象外となる例が一般的です。

相続・個人所有の賃貸では所得区分や青色申告特別控除の適用関係も変わるため、税理士等の専門家に個別確認をおすすめします。

 

  • 補助は年度ごとに要件・上限が変動→最新の要綱・募集要領を確認。
  • 交付決定前の契約・着工は対象外になりがち→工程は余裕を確保。
  • 税務は資本的支出・修繕費の判定が重要→明細・写真・契約書を保存。
  • 固定資産税や事業税の扱いは自治体差→窓口で事前照会が安心。

 

費用回収の期間と効果の基準

費用対効果は、初期投資と年間の削減・増収効果を同一条件で比較します。削減効果は保守費の低減、故障減による緊急出動費の縮減、停止時間短縮による機会損失の抑制など、増収効果は快適性向上による空室率低下(賃貸)や販売訴求力向上(売買)です。

基本式は「回収年数=初期投資÷(年間コスト削減+年間収益増)」で、割引率(資本コスト)を考慮するならNPV(正味現在価値)で判断します。

 

以下は仮定に基づく試算例です(仮定は明記のうえ目安として利用)。

前提条件 数値(試算例) 解釈のポイント
初期投資 1,200万円(モダニゼーション) 見積時点・範囲(部材/仮設/試験)を明記
年間削減 120万円(保守費−20%、突発費減含む) 直近3年の実績平均で裏取り→過大評価を防止
年間増収 60万円(空室率改善等の効果) 入居率・賃料UPの根拠を明示→過小見積もりも検討
回収年数 1,200万円÷(120+60)万円=約6.7年 割引率を入れるならNPV・IRRで再評価
感度分析 削減−10%、増収−10%→約8.3年 保守契約・SLA・稼働条件で上振れを点検

 

以上を踏まえ、マンションでは総会での合意形成資料に「前提・見積時点・費用効果・停止影響」を1枚で整理し、賃貸オフィスではテナント向けの停止計画と代替動線を同時提示すると、スムーズな意思決定につながります。

 

取引と融資への影響

既存不適格は違法と直結しませんが、売買・賃貸・融資の各場面で「情報の不確実性」と「将来の資本的支出(エレベーター更新費など)」が価格や条件に反映されます。

評価は◯◯の一律減点ではなく、①安全装置の有無、②定期検査報告・是正履歴、③停止リスクとBCP、④長期修繕計画と積立金残高、⑤補助金や税務の扱い、を材料に個別判断されます。

金融機関は担保評価と返済原資の両面で見ます。例えば賃貸オフィスなら、停止時の機会損失やテナント影響を織り込んだネット収益の見直し、区分マンションなら共用部改修の負担見込みが着目点です。

 

観点 確認資料 実務の着眼点
安全性 安全装置の有無・点検記録・是正報告 戸開走行保護・地震時管制の実装と作動試験の履歴
費用 見積(時点併記)・長期修繕計画 更新時期・停止影響・資金計画の整合
収益 入居率・賃料・故障履歴 停止時の空室・賃料減の感度(目安で可)
担保 役所台帳・図面・検査済証 適法性の整理と担保価値の保全策

 

評価の下がり方と価格の交渉の基準

価格調整は「改修費の見込み」と「停止・故障に伴う収益影響」を裏付け資料とセットで示すのが基本です。賃貸物件はネット利回りで見ることが多く、将来の更新費を資本的支出として割引現在価値に換算し、想定空室・賃料減も感度分析に入れると納得感が上がります。

区分マンションの売買では、管理組合の修繕積立金残高と計画の妥当性を踏まえ、追加徴収(特別積立)の有無を前提に提示します。戸建てで屋内昇降機がある場合は、使用頻度・仕様・部品寿命の実績から維持費のレンジを示します。

金額や率は「実務見積の時点(例:2023〜2025年)」「収益仮定の根拠(直近決算・募集賃料)」を必ず明記します。

 

  • 交渉は「改修費のレンジ+停止影響の試算」を同時提示→価格乖離を縮小。
  • 売主側は「実施済み是正」「保守体制」「訓練記録」を示して減点を最小化。
  • 買主側は「見積の比較表(範囲・時点・内訳)」で不確実性を可視化。
  • 区分マンションは「積立金/戸当たり」「将来の追加徴収」への影響を整理。
  • 賃貸オフィスは「BCP整備」と「交互運転計画」の有無でリスク差を説明。

 

※簡易試算の一例(目安):初期改修1,000万円、年間収益影響−60万円(賃料減等)、割引率は仮に年3%とする→価格調整の考え方を共有し、最終金額は現地調査と正式見積で確定します。

 

金融機関の見方と審査の注意点

金融機関は①適法性の整理(既存不適格の範囲)、②担保価値の維持(将来の改修計画と資金手当て)、③返済原資(賃料収入等)の安定性を重視します。

定期検査報告の未提出や是正未了が続くと、担保評価や条件が慎重になりやすいです。収益評価では、DSCR(元利返済額を賄うキャッシュフロー倍率。

 

1.0倍超で返済可能の目安)を確認し、停止・改修期間中の賃料減や空室をどの程度織り込むかが論点です。

区分マンションの居住ローンは物件属性より返済能力重視ですが、共用部の大規模修繕負担が近い場合は返済余力の評価に影響することがあります。審査スタンスは金融機関差が大きいため、前広に資料を揃えて説明します。

 

確認項目 金融機関の着眼点 借り手の準備
適法性 既存不適格の範囲と是正計画の実現性 図面・台帳・検査済証・是正履歴の提示
安全装置 安全装置の有無・作動試験・保守体制 点検記録・試験成績・BCP資料を用意
資金計画 更新費の見積と資金手当ての方法 見積(時点明記)・積立金・借入枠の根拠
返済原資 DSCR・空室率・賃料感度 直近実績と感度分析の表を添付

 

管理の規約と長期の修繕計画のチェック

区分所有建物の取引では、管理規約と長期修繕計画の整合が価格・融資・将来負担を左右します。エレベーターは共用部の中でも費用規模が大きく、更新時期・停止影響・資金手当て(修繕積立金・借入・補助金)が計画に反映されているかが重要です。

直近の総会議事録で、故障頻度・安全装置の導入可否・見積比較の状況を把握し、積立金の水準(戸当たり)と将来の特別徴収の有無を確認します。

賃貸オフィスのオーナーは、管理委託契約で保守SLA(到着時間・復旧時間)や夜間対応が明記されているか、テナントへの周知方法が定められているかを点検します。自治体や管理会社の運用に差があるため、様式・期限は事前確認が安心です。

 

ポイント
  1. 管理規約・使用細則→工事決議要件と費用分担の定義を確認。
  2. 長期修繕計画→EV更新の時期・概算・財源の記載を照合。
  3. 議事録→故障・指摘の是正経緯と住民合意の状況を確認。
  4. 積立金→残高・積立方針・追加徴収の見通しを評価。
  5. 委託契約→保守SLA・夜間休日対応・連絡網の明文化を点検。

 

事故時の責任と保険の範囲の把握

事故時の責任は、所有者・管理者の安全配慮義務と保守契約の履行状況が判断材料になります。定期検査報告や指摘の是正が不十分であれば、過失評価が重くなる可能性があります。

保険は「施設賠償責任保険(第三者への賠償)」「建物付帯の機械関連補償(電気的・機械的事故の修理費等)」「管理者賠償責任保険(管理業務上の賠償)」などを組み合わせます。

 

区分マンションは共用部保険の範囲と専有部の重なり、賃貸オフィスはテナントの業務損失の扱い(特約)を確認します。

保険約款や特約は商品差・時点差が大きいので、事故対応の連絡手順・記録様式・外部機関連携(救急・警察・保守会社)を平時から文書化し、訓練で周知しておくと被害の拡大を防げます。

 

保険種別 主な補償範囲 確認ポイント
施設賠償責任 第三者のケガ・財物損壊への賠償 免責条項(点検不備等)と支払限度額・特約の有無
機械関連補償 電気的・機械的事故の修理・復旧費 エレベーター対象可否・老朽化による不担保の範囲
管理者賠償 管理業務上の過失による賠償 委託・再委託時の責任分担と通知義務
事業中断補償 停止に伴う利益喪失の一部補填 待機期間・補償期間・算定式の明確化(オフィス向け)

 

以上を踏まえ、売主・貸主・管理者・借主の立場を明確にし、前提条件と根拠の種類・時点を併記した資料で説明すると、価格・条件・融資の合意形成が進みやすくなります。

 

まとめ

既存不適格は「違法」ではなく、昔の基準で建った状態。重要なのは現状の安全確保と、増改築や取引時の正しい対応です。

図面・検査済証・点検記録を確認し、安全装置の有無と改修費の目安、使える補助金を把握。相場と融資の見方も押さえ、費用対効果とリスクを比較。迷ったら管理会社や専門家へ早めに相談しましょう。