借地権と地上権は似て非なる権利です。本稿は〈定義と性質〉〈設定・更新・終了〉〈登記・対抗要件〉〈費用・評価〉の4点を初心者向けに整理。
契約書で確認すべき条項、承諾要否の見分け方、更新や建替え時の注意まで手順化します。売買・相続・融資の場面で迷わず判断できる基礎とチェックの型を身につけられます。
概念と法的性質の違い/基礎
借地権と地上権は、いずれも「土地を使って建物などを所有・利用するための権利」ですが、法的な性質と実務上の扱いが大きく異なります。
地上権(ちじょうけん)は物権=特定の物を直接支配できる強い権利で、登記により第三者にも主張できます。
借地権(ここでは建物所有を目的とする土地賃借権を指します)は債権=相手方に一定の行為(使用収益させること)を請求する権利で、契約内容に強く左右されます。
ただし借地には特則があり、借地上の建物を登記すれば、土地賃借権の登記がなくても第三者に対抗できる仕組みがあります。
実務では、戸建て・アパート・事務所ビルなど物件種別や取引(売買・相続・融資)に応じ、〈定義→登記・対抗要件→譲渡・転貸・承諾→期間・更新・建替え〉の順で論点を整理すると混乱を避けられます。
たとえば戸建ての底地売買では、賃借権(借地)の承諾要否・更新期・地代改定履歴、事業用ビルでは地上権の登記・抵当権設定の可否が価格・与信に直結します。
【重要ポイント】
- 地上権=物権・登記で対抗/借地権(賃借)=債権・契約で可否が決まる
- 借地は建物登記で対抗可(特則)→対抗要件の取り違えに注意
- 実務は「契約書・登記・承諾・更新期」を一枚表で整理が有効
借地権と地上権の定義の違いを整理
地上権は、土地の上に建物・工作物・竹木等を所有するために土地を使う物権です。物権は「特定の物に直接及ぶ」ため、第三者が現れても、原則として登記で優先関係を主張できます。
一方、借地権(ここでは土地賃借権)は、貸主(地主)と借主の合意に基づき土地を使用収益する債権で、内容・範囲・制限は契約条項に依存します。
賃貸借である以上、譲渡・転貸・増改築・建替えなど「貸主の承諾」を要する行為が契約で定められているのが普通です。
戸建ての居住用では、借地契約が一般的で、更新・増改築・名義変更の都度、承諾や書換料が問題になりやすいです。
分譲マンション敷地のように権利関係が複層化する場合は、区分所有法上の敷地権(所有権・地上権・賃借権のいずれか)を確認します。
事業用では、地上権設定+抵当権設定が資金調達に用いられる例があり、権利の強さ・自由度がスキーム選定に影響します。
【考え方のコツ】
- 「目的:建物等の所有」→地上権も借地権も該当し得るが、性質(物権/債権)が違う
- 借地=契約依存→承諾・更新・地代条項を最優先で確認
- 地上権=処分性が高い→登記・担保・譲渡の設計余地が広い
物権と債権の区別と権利範囲
物権(地上権)は、土地という「物」に対して直接効力が及び、原則として誰に対しても妨害排除を主張できる強い権利です。登記により公示され、譲渡・転貸・抵当権設定も、原則は契約で制限がない限り自由です。
債権(借地権=土地賃借権)は、当事者間の拘束力が基本で、第三者に直接ぶつけるには対抗要件(後述)が必要です。権利の範囲も契約条項により細かく画定され、用途・期間・工作物の規模、譲渡・転貸・増改築・建替えの可否などが実務上の争点になります。
具体例として、ロードサイド店舗の開発では、将来の増築・用途変更を見越して地上権+長期契約を採り、金融機関の担保設定を容易にする設計が選ばれることがあります。
居住用の戸建て・賃貸アパートでは、柔軟性よりも地代・更新・承諾関係の運用コストを重視し、賃貸借(借地)での運用が多い傾向です。
区分マンションの底地は、多数当事者の利益調整が必要なため、承諾・説明・費用負担のルール化が価値維持に直結します。
【重要ポイント】
- 物権(地上権)=処分・担保設定が容易/債権(借地)=契約条項が支配
- 用途・規模を変える計画があるなら、将来の承諾要否を事前に設計
- 金融機関は権利の強度と対抗力を重視→資料で可視化が必須
譲渡・転貸・承諾の要否の比較
譲渡(権利の移転)・転貸(第三者に再度貸す)に関する扱いは両者で大きく異なります。地上権は原則自由に譲渡・転貸が可能ですが、設定契約で制限されている場合があります。
借地権(賃借)は、原則として貸主の承諾が必要で、無断譲渡・無断転貸は解除・違約のリスクになります。
建替え・増改築も、地上権では原則自由(ただし契約での制限に注意)、借地権では承諾や条件(承諾料、規模・用途制限等)が付くのが通常です。売買・相続の現場では、この「自由度の差」が価格と手続コストに直結します。
| 項目 | 地上権 | 借地権(賃借) |
|---|---|---|
| 譲渡・転貸 | 原則自由(契約で制限可) | 原則、貸主承諾が必要(無断は解除リスク) |
| 建替え・増改築 | 原則自由(契約で制限可) | 承諾が必要なことが多い(条件・承諾料の協議) |
| 名義変更・書換 | 制度上の「書換料」は想定外(契約個別) | 名義書換料・承諾料が協議事項になりやすい |
【手順・ステップ】
- 契約書の該当条項を特定(譲渡・転貸・増改築・建替え)
- 承諾要否・条件(費用・期限・提出書類)を一覧化
- 売買・融資スケジュールに承諾取得を組み込む
対抗力と第三者への効力の違い
第三者(例:新オーナー、抵当権者、買受人)に自分の権利を主張できるかどうか=対抗力は、価値と安全性の核心です。地上権は物権なので、不動産登記(権利部)により第三者に対抗できます。
借地権(賃借)は原則として登記がなければ第三者に対抗できませんが、借地については特則があり、借地上の建物が登記されていれば、土地賃借権の登記がなくても第三者に対抗できます(建物登記による対抗)。この違いは、底地売買・任意売却・競売といった局面で明暗を分けます。
実務では、戸建ての借地で建物登記が未整備のまま底地が第三者へ移転し、更新や地代で紛争化する例が見られます。
対策として、建物の表題・権利の登記を早期に整備し、契約・承諾・更新の履歴(年・金額・書面)を保存します。
事業用であれば、地上権設定+登記+抵当権設定の三点セットを先に固め、テナントとの賃貸借契約と整合を取ることで、担保力と流動性を確保できます。
【重要ポイント】
- 地上権=登記で対抗/借地権=建物登記で対抗できる特則あり
- 登記未整備は高リスク→売買・融資前に必ず整備
- 履歴(更新・承諾・地代改定)を年次で保存→第三者説明に有効
設定・存続・終了の比較/制度
借地権(ここでは建物所有を目的とする土地賃借権)と地上権は、いずれも「土地を使って建物等を設ける」ための権利ですが、設定のしかた・存続の考え方・終了時の扱いが大きく異なります。
地上権は物権で、設定契約の後に登記を備えることで第三者に強く主張できます。借地権は賃貸借に基づく債権で、契約条項が運用を左右しますが、借地については建物の登記で第三者に対抗できる特則があります。
期間面では、借地は契約で期間が定められ、更新(合意更新・法定更新)の枠組みが準備されています。
一方、地上権は契約で自由に期間を設計でき、更新は合意により行います。終了時は、借地は明渡し・工作物の買取りや原状回復の条項が争点になりやすく、地上権は登記・契約で処理手順が明確化されていれば移行がスムーズです。
戸建ての居住用(借地)では名義変更・更新・承諾の段取りが重要になり、事業用(地上権)では登記・担保設定・増改築の自由度が資金調達と収益計画の中核を担います。
【重要ポイント】
- 地上権=物権・登記で強い対抗力/借地権=契約依存・建物登記で対抗可
- 更新・終了の段取りは「契約→登記→承諾→明渡し」の順で可視化
- 居住用は承諾運用、事業用は登記・担保運用が鍵
設定契約と登記可否の要点
地上権は「地上権設定契約書」に基づき設定し、権利部(乙区)に登記して公示します。登記により第三者対抗力と流通性(譲渡・転貸・担保設定の設計余地)が高まり、ロードサイド店舗・物流施設・発電用地など事業用で使われやすい形式です。
借地権(賃借)は「土地賃貸借契約書」に基づき、地代・期間・用途・譲渡・転貸・増改築・建替えの承諾要否等を定めます。
賃借権そのものの登記は、実務上は貸主の同意を要し、普及度は高くありませんが、借地については借地人の建物を登記しておけば、土地賃借権の登記がなくても第三者に対抗できます。
居住用の戸建て・区分マンション敷地では、契約・建物登記・承諾書の整備が優先課題になり、地上権は事業用で「登記→担保→資金調達」の流れが中心です。
売買・相続・融資の局面では、登記事項証明書と契約条項を突き合わせ、対抗要件と承諾関係を一枚表に整理しておくと、後工程(評価・引渡し・融資実行)が安定します。
【手順・ステップ】
- 権利形式の選定(借地/地上権)と契約ドラフトの用意
- 対抗要件の確認(地上権登記/借地の建物登記)
- 譲渡・転貸・増改築・建替えの承諾条項の明確化
- 売買・融資を見据えた証憑(契約・登記・承諾書)を保全
期間・更新・消滅事由の比較
期間設計は、運用や出口(売却・再開発)に直結します。借地は契約書に定める期間を起点に、更新は合意更新または法律の枠組みに従う更新が想定され、更新拒絶には相応の理由や調整(立退き条件等)が求められます。
残存期間が短いと、買主の融資期間・金利条件に響きやすく、売買価格・地代改定とも連動します。
一方、地上権は期間を自由に設計でき、期間満了で法定更新が生じるわけではありません。再設定や延長は当事者の合意で行うのが基本で、契約で中途解除・非違約条項(滞納・目的外使用・毀損等)を明確にしておくと運用が安定します。
消滅事由は、借地では期間満了・合意解除・解除事由の発生など、地上権では期間満了・合意消滅・放棄・約定解除などが中心です。
戸建て(借主)側は「次回満了日・更新の方式・更新料の取扱い」を早めに把握し、事業用(地上権)側は「残存期間と再設定条項・担保条項」を金融機関と共有しておくと判断が速くなります。
【重要ポイント】
- 借地=更新前提の運用設計/地上権=合意で延長・再設定
- 残存期間は価格と融資条件に直結→スケジュール表で管理
- 解除・非違約条項を明文化→紛争・滞納時の行動を平文化
建替え・増改築の承諾の扱い
建替え・増改築は、居住用でも事業用でも価値に大きく影響します。地上権は物権性が強く、原則として建替え・増改築は自由ですが、騒音・荷重・用途変更など周辺影響を踏まえ、契約で事前協議・禁止・制限を定めることがあります。
借地は賃貸借の性質上、建替え・増改築・用途変更に貸主の承諾を要する条項が置かれるのが通常で、承諾料や条件(規模・構造・工期・仮使用方法)を協議します。
居住用戸建ての耐震改修や、賃貸アパートの増床、事業用ビルの用途転換(オフィス→店舗)など、いずれも承諾範囲の明確化と書面化が紛争予防に直結します。
承諾が得にくい場合は、計画の縮小・段階施工・代替条件(地代改定・保証金・原状回復の強化)を提案し、合意書に図面・工程・安全対策・近隣調整の記録を添付します。
投資家・金融機関への説明では、「承諾の有無・承諾条件・履歴」を一括資料で提示すると、改修資金やLTVの判断がスムーズです。
【手順・ステップ】
- 計画の要点(構造・規模・用途・工期・騒音)を整理
- 契約条項の確認→承諾要否と提出書類(図面・工程)の確定
- 承諾条件の協議→金額・地代改定・安全対策・原状回復を明記
- 合意書化→図面・工程・近隣調整記録・保険付保を添付
滅失・再築時の取り扱い
火災・老朽化・災害等で建物が滅失した場合の取り扱いは、権利の種類で重みが異なります。
借地は、更新や建替えの局面で「滅失後の再築可否」「再築に関する承諾・通知」「満了時点の建物の有無」が争点になりやすく、満了直前の更地化は更新可否への影響が大きくなります。
実務では、滅失直後に再築計画(構造・規模・工期)を提示し、承諾・仮設・保険金の取扱い・近隣調整を同時並行で進めます。
地上権は、原則として滅失しても地上権自体は存続し、再築の自由度が高い一方、契約で「滅失後の再築条件」「安全・景観・用途制限」を置いていることがあります。
戸建てでは、火災保険金の充当計画と再築承諾の整合、区分マンション敷地では管理組合との協議記録、事業用では仮営業・仮設動線・産廃処理の責任分界を明確にします。
売買・融資の場面では、「滅失の有無・再築計画・承諾の進捗・満了までの残存期間」を要約し、評価書・保険書類・写真台帳を添付すると、意思決定が加速します。
【重要ポイント】
- 借地=満了前の更地化は更新可否に影響→再築計画を早期提示
- 地上権=再築は原則自由だが契約制限に注意→条項で事前確認
- 保険・仮設・近隣調整を同時並行→証跡化して紛争予防
登記と対抗要件の確認/手順
登記(とうき)は、権利関係を公に示して第三者へ主張できる状態に整えるプロセスです。地上権は物権のため、権利そのものを登記(権利部)すれば、売買・担保・差押えなど第三者に強く対抗できます。
借地権(建物所有目的の土地賃借権)は債権ですが、借地については特則があり、土地賃借権を直接登記していなくても、借地上の建物を登記していれば第三者に対抗できます(建物登記による対抗)。
実務では、売買・相続・融資の各場面で「対抗要件の有無」が価格・LTV・契約条件に直結します。戸建て(借主)では建物の表示・所有権の登記、名義変更、承諾書の保存が優先課題です。
事業用で地上権を使う場合は、地上権設定登記→抵当権設定→運転資金・開発資金の調達という順で書類を整えると、担保力と流動性が確保できます。
区分マンションの敷地では、敷地権の内容(所有権・地上権・賃借権の別)と各戸の持分を必ず確認し、対抗要件の有無を評価明細に明記します。
【重要ポイント】
- 地上権=権利そのものの登記で対抗力を確保
- 借地権=建物登記で第三者対抗可(特則)→未整備はリスク
- 売買・融資前に「登記・契約・承諾」の証憑を一式で確認
| 区分 | 登記対象 | 対抗要件・実務メモ |
|---|---|---|
| 地上権 | 地上権そのもの(権利部) | 登記で第三者対抗可。譲渡・転貸・抵当の設計が容易 |
| 借地権 | 土地賃借権は原則登記しない運用が多い | 建物登記があれば第三者対抗可。未登記は紛争化リスク |
建物登記による賃借権の対抗
借地権(建物所有目的の土地賃借権)は、原則として賃借権自体の登記が普及していません。そこで、借地では「借地人が所有する建物を登記しておけば、土地賃借権の登記がなくても第三者に対抗できる」という特則が重要になります。
具体的には、底地が第三者へ売却・相続・競売で移転した場合でも、借地上の建物が登記されていれば、新たな所有者に対し借地権の存続を主張できます。
実務でのつまずきは、①古い建物の名義が前所有者のまま、②増改築後の表題・床面積が未反映、③未登記のまま底地売買が進む、の三点です。
戸建て・アパート・テナントビルいずれでも、建物の表題登記・所有権保存登記・移転登記を確実に行い、賃貸借契約書・更新合意書・承諾書(譲渡・増改築・建替え)・地代の領収記録を年次でファイリングしておけば、第三者への説明が容易になります。
融資や売買では、建物登記事項証明書・建物図面・写真台帳を添付し、対抗要件と利用実態(用途・入居状況)を一致させることが評価・審査の近道です。
【手順・ステップ】
- 建物の登記状況を確認(表題・所有権・名義)
- 未登記・名義不一致・増改築未反映があれば早急に補正
- 契約・承諾・更新・地代の履歴を整理し、証憑化
- 売買・融資前に建物登記簿+契約一式を提出できる状態に
地上権登記の効力と活用
地上権は物権のため、地上権設定登記を備えれば、第三者に対して強い対抗力を持ちます。これにより、譲渡・転貸・抵当権設定などの処分が設計しやすく、ロードサイド店舗、物流拠点、再エネ発電所、データセンターなど事業用スキームで広く活用されます。
実務上のメリットは、①権利内容・期間・範囲が登記で明確になる、②担保化が容易で資金調達の選択肢が広がる、③賃貸借に比べ承諾関係の運用コストを抑えやすい、の三点です。
一方、契約で譲渡・転貸・増改築・用途変更を制限する条項が付いていることもあるため、自由度は契約設計次第です。
地上権を用いる場合は、敷地境界・地役権(通行・配管)・環境規制・近隣協定も同時に整理し、地上権界の図面化、立体的な利用領域(地下・上空)の扱い、更新・買取オプションの有無を合意書で明確にします。
金融機関向けには、登記事項証明書・契約書・物件計画(図面・荷重・動線)・収益計画をセットで提示し、抵当権設定の可否・順位・代位の取り決めを先行して合意しておくと、実行が円滑になります。
【重要ポイント】
- 地上権設定登記=対抗力・流通性・担保力の確保
- 自由度は契約しだい→処分・用途・増改築の条項を明文化
- 境界・通行/配管・環境の付随権利を同時整理→図面で可視化
名義変更・書換料・承諾書の整理
借地の売買・相続・贈与では、名義変更(借地人の表示変更)や譲渡承諾・建替え承諾が論点になります。
名義変更は、賃貸人への承継通知と併せて実施し、契約条項に「名義書換料」「譲渡承諾料」「増改築・建替え承諾料」等の取り決めがある場合は、その根拠と金額の考え方(事務負担・調査コスト・将来リスク)を明文化して合意書に落とし込みます。
相続では承諾が不要でも通知は必須の運用が一般的で、地代口座・連絡先の変更、管理組合(区分)の届出を同時に進めます。
事業用では、承諾条件として地代改定や保証金、原状回復の強化、工期・騒音対策・安全計画の提出が付くことがあり、工程表と図面を添付した合意書を事前に整えておくと紛争予防に有効です。
【手順・ステップ】
- 契約条項の確認→名義変更・譲渡・転貸・増改築・建替えの承諾要否を特定
- 必要書類の準備→承諾申請書、売買/相続の根拠書、本人確認、地代口座変更届
- 条件交渉→金額・支払時期・不成立時の扱い・地代改定の有無を文書化
- 合意書・領収書・返信書面を保全→年次ファイルに保存
| 場面 | 主な書類・留意点(例) |
|---|---|
| 売買(借地) | 賃貸借契約書、譲渡承諾申請、承諾書、名義書換届、地代口座変更、建物登記事項証明書 |
| 相続(借地) | 戸籍一式、相続関係説明図、承継通知、名義書換届、固定資産税納税通知書(年度) |
| 事業用(地上権) | 地上権設定契約書、登記事項証明書、計画図、承諾条件合意書、担保関係書類 |
費用・評価・相場の目安/相場
借地権と地上権の費用・評価は、最終的には契約条項と当事者合意で決まりますが、交渉の“型”として共通の考え方があります。
地代は「指数スライド(消費者物価指数など)」「事例比較(近隣の実勢地代)」「利回り法(更地価格×地代利回り−経費)」「税額倍率(固定資産税・都市計画税×倍率)」のいずれかで整合を取り、更新料は法定一律がないため、過去の合意・地域慣行・残存期間・地代改定状況を踏まえてレンジで検討します。
承諾料(譲渡・建替え・用途変更など)は、借地人の利益増と地主の負担増のバランスで設計し、根拠と時点(例:路線価の年度、固定資産税の年度)を評価明細に明記します。
戸建て・区分マンション・事業用で重視点は異なり、戸建ては形状・接道、事業用は角地・間口・視認性が価格説明の軸になります。
【重要ポイント】
- 数字は“出所と時点”を必ず併記(例:路線価◯年度、固定資産税◯年度)
- 単一値よりレンジ提示→分割払・経過措置など代替案を用意
- 契約条項・更新履歴・承諾履歴を時系列化→交渉と審査が安定
地代・更新料の考え方の目安
地代は、経済事情や近隣相場との乖離が大きくなった段階で見直しが検討されます。
説明しやすい順に、①スライド法=従前地代×指数(消費者物価指数など)で調整、②事例比較法=近隣・同用途の実勢地代に平仄合わせ、③利回り法=更地価格(路線価◯年度等)×地代利回り−維持管理コスト、④税額倍率法=固定資産税・都市計画税(当年度)×倍率で概算、という“型”を使い分けます。
住宅地の戸建ては税額倍率やスライドが受け入れられやすく、商業・事業用は利回り法や事例比較の説得力が高い傾向です。
更新料は法律に一律基準がなく、〈借地権価格×α〉〈更地価格×β〉〈地代×月数〉などの試算式でレンジを可視化します。
例えば仮定として、月額地代3万円、借地権価格2,000万円、更地価格4,000万円なら、〈地代×6か月〉=18万円、〈借地権×5%〉=100万円、〈更地×3%〉=120万円と幅が見えます。どれを採るかは残存期間、過去の改定履歴、用途(居住・事業)で調整します。
| 算定型 | 使いどころ(例) |
|---|---|
| スライド法 | 長期継続契約の調整。指数と対象期間を明記 |
| 事例比較法 | 近隣・同用途の実勢レンジに合わせる際 |
| 利回り法 | 事業用・収益物件の説明に有効(更地価格×利回り) |
| 税額倍率法 | 居住用や小規模地の入口として簡便に試算 |
【手順・ステップ】
- 前回改定からの乖離を数値化(指数・事例・利回り根拠)
- 2~3型でレンジを作成→分割や経過措置も案内
- 評価明細に“データ名・年度・算式”を併記して提示
譲渡承諾料・建替え承諾料の幅
承諾料は、借地人に生じる利益(転売益・収益増・建物価値向上)と、地主側の負担・リスク(権利関係の複雑化・将来の明渡し困難化等)を勘案して協議で決まります。
実務の試算型として、〈譲渡承諾料=借地権価格×γ〉、〈建替え承諾料=更地価格×δ〉、〈条件変更承諾料(用途・構造の大幅変更等)=更地価格×ε〉がよく用いられます。
あくまで仮定の目安として、γ=5〜10%、δ=2〜5%、ε=10%程度を置くと初期レンジが作れます。
例えば、更地価格5,000万円・借地権価格2,500万円(いずれも根拠時点を明記)なら、譲渡承諾料≈125〜250万円、建替え承諾料≈100〜250万円、条件変更承諾料≈500万円が“考え方の幅”として見えます。
親族間承継や居住目的の維持は減額要因、規模拡大や用途転換(例:住宅→店舗)は増額要因になりやすいです。
合意書には金額・支払時期・不成立時の扱い(預り金返還条件等)・地代改定の有無・工期中の使用方法を記載し、図面・工程表・安全対策・近隣調整記録を添付すると紛争予防に有効です。
【重要ポイント】
- “どの利益・負担をどの係数で評価したか”を文書化
- 親族内・居住継続=減額/規模拡大・用途転換=増額の傾向
- 合意書に金額・時期・代替案・不成立時処理まで明記
借地価格と底地価格の按分の考え方
相続・贈与や売買の場面では、自用地価額(路線価方式:路線価◯年度×地積×補正、または倍率方式:固定資産税評価額◯年度×倍率)を起点に、借地権価格=自用地価額×借地権割合、底地価格=自用地価額×(1−借地権割合)で按分するのが基本です。
例えば、自用地価額3,000万円、借地権割合60%なら、借地1,800万円・底地1,200万円が初期の“理論値”です。
ただし実勢価格は、地代水準、残存期間、更新・承諾履歴、明渡し可能性、滞納・紛争、角地・間口などの条件で上下に振れます。
事業用で角地・間口広・高地代・残存期間短は底地上振れ、居住用で長残存・低地代・滞納・擁壁リスク等は底地下振れの要因です。
評価明細では、理論按分値と収益還元の示唆(継続賃料レンジ等)を並記し、どの要素がどの方向に影響したかを説明します。
区分マンションの敷地は、各戸の敷地権持分(例:5,000/300,000)を乗じたうえで按分し、専用使用や管理規約の制約を注記します。
| 要因 | 上振れに効きやすい条件 | 下振れに効きやすい条件 |
|---|---|---|
| 賃料・期間 | 高地代・残存期間短・更新合意明確 | 低地代・残存期間長・更新不確実 |
| 権利関係 | 承諾履歴整備・明渡し見込み高 | 滞納・紛争中・承諾未整備 |
| 画地条件 | 角地・間口広・視認性高 | 不整形・擁壁・高低差・無道路 |
【手順・ステップ】
- 自用地価額を同一年度データで確定(路線価/倍率+補正)
- 借地・底地へ按分→理論値を提示
- 賃料・期間・承諾・画地条件の調整要因を列挙→レンジ化
売買・相続・融資への影響/注意点
借地権と地上権は、権利性質の違いがそのまま売買価格・相続税評価・金融機関の担保評価に波及します。
一般に、地上権は物権で処分・担保設定が行いやすく、権利の自由度と対抗力が価格・LTV(融資比率)の上振れ要因になります。
一方、借地権は契約条項(譲渡・転貸・建替え承諾、更新期、地代改定)に強く依存し、残存期間や承諾履歴の整備度合いが価格・融資条件の分岐点です。
相続・贈与では、路線価(価格時点)と借地権割合(A〜G)を同一年度で適用し、評価明細に前提・算式・補正の根拠を併記すると、税務・金融・相手方の認識差を抑えられます。
戸建て(居住用)は形状・接道の補正、事業用は角地・間口・動線といった収益要因の説明力が決め手になります。
取引の現場では、契約・登記・承諾・更新・地代改定の履歴を一体で提示し、対抗要件の有無と残存期間を一枚の要約表で可視化することが、価格と融資を安定させる近道です。
売買価格・担保評価への影響
価格と担保評価は、「権利の強度(対抗力)」「残存期間」「承諾運用」「画地条件(角地・間口・高低差)」で大きく振れます。
地上権は登記により第三者対抗力が明確で、譲渡・抵当権設定の自由度が高く、事業用スキームではLTVや金利条件で優位に働きやすい構造です。
借地権は、名義変更・譲渡・用途変更・建替えに承諾要否が絡むため、未整備だと価格ディスカウントや融資期間短縮の要因になります。
残存期間が短い借地は、買主側の資金計画に与える影響が大きく、更新の確度・更新料の水準・地代改定履歴が評価調整の焦点です。
戸建て売買では、私道負担・越境・擁壁等の個別要因、区分マンション底地では管理組合との合意形成コストが、収益物件では稼働・賃料改定の実績が、それぞれプレミアム/ディスカウント要因になります。
| 評価軸 | 地上権(物権) | 借地権(賃借) |
|---|---|---|
| 対抗力 | 登記で明確→流通・担保に有利 | 建物登記で対抗可だが契約依存 |
| 残存期間 | 合意で再設定・延長が設計可能 | 短いと価格・融資期間が縮む傾向 |
| 承諾運用 | 契約制限がなければ自由度高い | 譲渡・増改築・建替えに承諾が必要 |
【重要ポイント】
- 対抗要件と残存期間を要約表で提示→価格・LTVの根拠を可視化
- 承諾履歴・更新履歴・地代改定の整備→ディスカウント要因の除去
- 画地条件(角地・間口・高低差)と収益指標を併記→評価の説得力を補強
相続税評価と借地権割合の確認
相続・贈与の評価は、自用地価額(路線価方式:路線価〔該当年度〕×地積〔㎡〕×補正/倍率方式:固定資産税評価額〔当年度〕×倍率)を起点に、借地権価格=自用地価額×借地権割合、底地価格=自用地価額×(1−借地権割合)で按分します。
借地権割合はA〜Gの記号(例:A=90%〜G=30%のレンジ)で路線単位に設定されるため、「町丁目の感覚値」で流用せず、必ず該当路線の記号を確認します。
計算は年度の統一が鉄則で、路線価の価格時点・公表時期、固定資産税の年度を評価明細に明記します。区分マンション敷地は各戸の敷地権持分を乗じ、専用使用の有無や管理規約の制約を注記します。
【手順・ステップ】
- 画地確定→該当路線の路線価(年度)・借地権割合(記号)を特定
- 補正(奥行・間口・不整形・角地等)を適用→自用地価額を算出
- 借地・底地へ按分→評価明細に算式・根拠・年度を併記
- 区分は持分を乗算→専用使用・規約の注記を追加
【重要ポイント】
- 割合は“自治体一律”ではなく“路線単位”→記号の読み違いに注意
- 年度・面積・係数を統一→仮定値と実データの混在を避ける
- 相続・贈与の期日管理と添付資料の整備→再提出リスクを低減
紛争予防のチェックポイント
権利性質の違いに起因する紛争は、対抗要件・承諾・残存期間・地積の4点で起こりやすいです。まず、登記(地上権)または建物登記(借地)の整備と、契約・承諾・更新・地代改定の履歴を年次でファイリングします。
売買・相続・融資の直前に、対抗要件の有無と残存期間、承諾条件(譲渡・用途変更・建替え)、地積(登記・測量・私道負担・セットバック)を一括点検します。
境界・越境・擁壁は写真台帳と覚書で証跡化し、区分マンション底地は管理組合の届出・規約の遵守を明記します。
評価・申告は指標の時点統一(路線価の年度、固定資産税の年度、公示地価の価格時点)を徹底し、明細に算式・根拠・データ名を残すと、税務調査・金融審査での説明負荷が大きく下がります。
【チェック項目】
- 対抗要件→登記/建物登記の整備、契約・承諾・更新・改定履歴の保存
- 残存期間→次回満了日・更新方式・更新料の取扱いを要約表化
- 地積・接道→測量・私道負担・セットバック・越境の是正合意を確認
- 評価明細→指標の時点統一・算式・根拠資料の添付で再現性を確保
まとめ
違いを押さえる順番は「定義と性質→設定・更新→登記・対抗→費用・評価」です。契約書の譲渡・転貸・承諾条項、期間・更新期日、登記の有無を一覧化し、更新や建替えは事前協議と書面化でリスクを低減します。
売買・相続・融資では評価根拠と時点をそろえ、不明点は早めに専門家へ相談すると実務が安定します。


















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