同じ年収でも手取りがなぜ違うのか—その答えは税金と社会保険料、そして控除制度にあります。本記事では最新の2025年度税率を用いた年収別手取り早見表と、誰でも再現できる計算手順、住宅ローン控除や医療費控除など主要控除を網羅的に解説。
読めば今すぐ自分の可処分所得と節税余地が把握できます。さらに年収500万円モデルケースで控除適用前後の差額もシミュレーションし、家計改善のヒントを提示します。
年収と手取りの基礎知識

年収とは会社が労働対価として約束した総支給額(給与+賞与)を指し、社会保険料や税金が差し引かれる前の“額面”です。
一方、手取りは毎月の給与明細で実際に受け取れる振込額であり、可処分所得とも呼ばれます。両者の差額を生む主な要因は①所得税②住民税③社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険・介護保険)④企業ごとの天引き(財形貯蓄・社宅費など)です。
2025年度のモデルケースでは、年収500万円(独身・扶養なし)の場合、年間手取りは約379万円となり、差額は121万円=総支給の24%超に達します。
税金・保険料は累進制と定率制が混在し、年収が上がるほど手取り率は低下するため、ライフプラン策定には差額の仕組みを理解することが欠かせません。
【差額を生む4大要因】
- 所得税:累進税率5〜45%+復興特別所得税
- 住民税:一律10%(所得割)+均等割5,000円
- 社会保険料:標準報酬月額に応じた定率負担
- 企業天引き:財形や持株会など任意控除
- 差額=“見えない固定費”と捉え早めに把握する
- 控除制度を活用すれば差額の一部を取り戻せる
総支給額と手取り額の定義
総支給額とは給与明細の「支給合計」に記載される金額で、基本給・各種手当・残業代・賞与を合算したものです。企業は雇用契約書で総支給額または算定基準を提示し、社会保険算定や税金計算のベースにします。
手取り額は総支給額から法定控除(所得税・住民税・社会保険料)と会社独自の控除(財形貯蓄・組合費など)を差し引いた残額で、給与振込日に実際に銀行口座へ入金される金額です。
例えば月給30万円の場合、健康保険料1.5万円・厚生年金2.7万円・雇用保険1,650円・所得税6,000円・住民税1.5万円が控除されると、手取りは約22.3万円となります。賞与も同様に社会保険料と源泉所得税が差し引かれるため、「年収÷12=毎月手取り」ではない点に注意が必要です。
さらに副業収入や不動産所得があると年末調整で精算し切れず、翌年の住民税に追加課税されるケースもあります。正確な手取り計算には年間ベースでの控除総額把握が必須です。
【手取り算定式】
- 手取り=総支給−(法定控除+任意控除)
- 賞与の社会保険料=標準賞与額×保険料率(上限573万円/年)
- 住宅手当は総支給に含まれるが課税対象
- 交通費非課税枠(月15万円まで)は所得税計算から除外
手取り額に影響する税金・社会保険の種類
手取り額に直接影響する法定控除は大きく「国税」「地方税」「社会保険料」に分類されます。所得税は超過累進税率で5〜45%、加えて復興特別所得税(2.1%)が上乗せされます。課税所得が330万円以下なら税率は10%台ですが、900万円を超えると33%となり、控除活用の有無で年間負担が数十万円変動します。
住民税は所得割10%+均等割5,000円(標準)で、前年の課税所得に基づき翌6月から徴収されるため、昇給や賞与増の翌年に“手取り減”を体感しやすい仕組みです。
社会保険料は健康保険(都道府県別で約10%—例:東京支部9.91%、労使折半)、厚生年金(18.3%)、雇用保険(労働者負担0.55%)、40歳以上は介護保険(1.6%前後)が加算されます。
厚生年金の標準報酬月額上限(65万円)の引き上げは2027年9月以降に段階実施予定で、2025年度時点では変更前の32等級(65万円)が適用されています。高年収ほど保険料負担が重くなる点は見逃せません。さらに年度ごとに料率が変動するため、将来の手取り予測には最新料率で再試算することが重要です。
年収別の手取り早見表

最新の2025年度料率(健康保険9.91%〈東京支部例・全国平均約10.00%〉・厚生年金18.30%〈いずれも労使折半〉、雇用保険0.55%、介護保険1.60%〈40〜64歳〉、所得税速算表・住民税一律10%+均等割5,000円)を用いて、主要年収帯ごとの「年間手取り」と「月額手取り」を算出しました。
モデルは①独身・扶養なし②配偶者+子1人(扶養2人)で比較しています。表中の手取りは法定控除のみを差し引いた概算値で、企業独自の財形貯蓄や社宅費は含みません。
扶養控除が増えるほど課税所得が圧縮されるため、同じ年収でも家族構成によって年間手取り差は最大40万円前後開きます。【使い方】該当する年収帯を見つけ、ボーナスや副業収入を加えた場合は「総支給=年収+α」で再度該当行を確認してください。
独身・扶養なしの場合
独身モデルでは各種扶養控除がないため、所得税・住民税・社会保険料がフルに課されます。標準報酬月額の上限改定により年収900万円を超える層は厚生年金の月額上限が引き上げられ、保険料負担が前年より増加しています。
具体的には年収500万円では可処分率約75.8%、年収800万円では約74.3%。高年収ほど累進税率の影響が大きく、手取り率が下がる点に注意が必要です。
年収 | 年間手取り | 月額手取り |
---|---|---|
300万円 | 約232万円 | 約19.3万円 |
400万円 | 約303万円 | 約25.3万円 |
500万円 | 約379万円 | 約31.6万円 |
600万円 | 約448万円 | 約37.3万円 |
800万円 | 約594万円 | 約49.5万円 |
1,000万円 | 約711万円 | 約59.3万円 |
扶養家族ありの場合
配偶者と子1人(年齢16歳未満)の扶養があるモデルでは、配偶者控除38万円・扶養控除(一般)33万円が加わり、所得税と住民税が大幅に軽減されます。
結果として手取り率は年収帯に関わらず独身より約3〜4%高く、年収500万円なら年間手取りは約404万円で独身時との差額は25万円程度です。なお子が16歳以上になると扶養控除が38万円に増え、住民税の非課税枠も拡大します。
年収 | 年間手取り | 月額手取り |
---|---|---|
300万円 | 約244万円 | 約20.3万円 |
400万円 | 約320万円 | 約26.6万円 |
500万円 | 約404万円 | 約33.7万円 |
600万円 | 約475万円 | 約39.6万円 |
800万円 | 約627万円 | 約52.3万円 |
1,000万円 | 約748万円 | 約62.3万円 |
手取り計算のステップと控除計算式

手取り額を正確に把握するには「総支給を確定 → 社会保険料を算定 → 課税所得を計算 → 所得税・住民税を算出 → 法定控除を差し引く」の5ステップを順番に行います。
ポイントは〈社会保険料が税額計算の前に控除される〉ことと、〈住民税は前年課税所得ベースで翌年6月から徴収〉されるタイムラグです。以下では2025年度料率を用いた具体的な計算式と、実務で必須となる速算表・標準報酬月額表の読み方を解説します。
【計算フロー早見】
- 総支給額(基本給+手当+賞与)を年間ベースで集計
- 標準報酬月額を確定し社会保険料を計算
- 課税所得=総支給−社会保険料−所得控除
- 速算表で所得税を計算し、復興特別所得税2.1%を上乗せ
- 住民税=課税所得×10%+均等割5,000円
- 手取り=総支給−(社会保険料+所得税+住民税)
- 賞与も社会保険料の対象になるため年2回まとめて加算
- ふるさと納税やiDeCoは所得控除に含め、課税所得を圧縮
所得税の課税所得計算と速算表の使い方
所得税を求めるには、まず給与所得控除を差し引き「給与所得」を算出します。次に社会保険料控除や基礎控除(48万円)、配偶者控除など計14種類の所得控除を差し引き「課税所得金額」を確定。
課税所得に超過累進税率を適用し、速算表の控除額を用いて税額を導きます。最後に復興特別所得税(所得税額×2.1%)を加算したものが源泉徴収される年税額です。
【課税所得と税額の計算例(年収500万円・独身)】
- 給与所得控除=500万×20%+44万=144万円
- 社会保険料=年約70万円(健康・年金・雇用)
- 課税所得=500万−144万−70万−基礎48万=238万円
- 速算表(課税195〜330万):税率10%、控除97,500円 → 所得税=238万×10%−97,500=140,500円
- 復興特別所得税=140,500×2.1%=2,951円
課税所得帯 | 適用税率 | 速算控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
参照:国税庁-所得税の税率とは
- 医療費控除や寄附金控除は年末調整に反映されず確定申告が必要
- 控除額を誤ると課税所得が過大になり手取りが減る
住民税(均等割・所得割)の算出方法
住民税は「均等割」と「所得割」に分かれ、均等割は自治体一律5,000円(標準)。所得割は前年の課税所得×10%で計算し、6月から翌5月まで12回で徴収されます。
課税所得が同じでも、前年中にふるさと納税や医療費控除を行うと翌年6月からの住民税が減額され手取りが増える仕組みです。
【住民税計算例(前年度課税所得238万円)】
- 所得割=238万×10%=23万8,000円
- 均等割=5,000円
- 年額=243,000円 → 月額20,300円
【減額シミュレーション】
- ふるさと納税4万円(自己負担2,000円) → 課税所得▲4万円 → 住民税▲4,000円 → 実質手取り+1.8万円
- 控除は翌年課税のため“翌年手取り増効果”を意識
- 特別徴収(給与天引き)と普通徴収を選択できる副業所得にも注意
社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険・介護保険)の計算手順
社会保険料は4月・7月・10月に決定する「標準報酬月額」を基に算出されます。健康保険料率は都道府県別で、2025年度の東京支部は9.91%(本人負担4.955%)。厚生年金は18.30%(本人負担9.15%)、雇用保険は0.55%、
介護保険は40〜64歳のみ1.60%が上乗せ。賞与については「標準賞与額」(年間上限573万円)に同率を掛けます。
【月額30万円・賞与60万円×2回(年収480万円・40歳未満)の例】
- 健康保険=30万円×9.91%÷2=14,865円/月
- 賞与60万円×9.91%÷2=29,730円×2=59,460円/年
- 厚生年金=月27,450円/賞与54,900円
- 雇用保険=月1,650円/賞与3,300円
- 年間本人負担計=社会保険料約70万円
【保険料早見(抜粋)】
標準報酬月額 | 健康保険(月) | 厚生年金(月) |
---|---|---|
26万円 | 約6,440円 | 23,790円 |
30万円 | 14,865円 | 27,450円 |
35万円 | 約17,335円 | 32,025円 |
- 残業や副業で報酬月額が1等級上がると手取りが逆に減る場合あり
- 標準報酬改定月(4〜6月)に手取り重視なら残業調整を検討
主な所得控除・税額控除の一覧と適用要件

所得控除は「課税所得を減らす仕組み」、税額控除は「算出された税額そのものを差し引く仕組み」です。2025年度の個人所得課税では、14種類の所得控除と代表的な税額控除が用意されています。
適用要件を満たせば年収が同じでも10万〜100万円単位で手取りが変わるため、最新版の要件を必ず確認しましょう。
控除名 | 上限額・控除額 | 主な要件 |
---|---|---|
基礎控除 | 48万円 | 合計所得2,400万円以下 |
配偶者控除 | 最大38万円 | 配偶者の年収103万円以下 |
扶養控除 | 38〜63万円 | 16歳以上の扶養親族 |
社会保険料控除 | 全額 | 健康保険・年金・iDeCo掛金ほか |
住宅ローン控除 | 年末残高×0.7%(最大31.5万円/年※ZEH・長期優良など) | 新築・中古・省エネ要件等、合計所得2,000万円以下 |
医療費控除 | 支払額−10万円(上限200万円) | 生計一体で合算・領収書保存 |
ふるさと納税 | 自己負担2,000円で住民税・所得税を控除 | ワンストップ特例または確定申告 |
- 所得控除は累進税率による税軽減効果が大きい
- 税額控除は計算後の税額から直接差し引くため即効性あり
- 控除要件は年度ごとに改正されるため最新版を必ず確認
基礎控除・配偶者控除・扶養控除
基礎控除はすべての納税者が受けられる48万円の所得控除で、合計所得2,400万円超から段階的に縮小します。
配偶者控除は配偶者の年収が103万円以下(給与所得のみ)の場合に最大38万円、配偶者特別控除は年収201万円まで段階適用。扶養控除は扶養親族1人あたり38万円(一般扶養)、特定扶養(19〜22歳)は63万円が控除されます。これらの「人的控除」は家族構成による手取り差を生む最大要因です。
【人的控除の比較シミュレーション(年収500万円)】
- 独身:課税所得238万円 → 所得税14.1万円
- 配偶者控除あり:課税所得200万円 → 所得税10.3万円(▲3.8万円)
- 配偶者+子1人扶養:課税所得167万円 → 所得税8.4万円(▲5.7万円)
- 配偶者の社会保険の壁は130万円、税の壁は103万・150万・201万円
- 扶養控除は16歳未満は所得税対象外だが住民税の非課税判定に影響
住宅ローン控除の仕組みと計算例
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は年末時点のローン残高×0.7%を所得税から控除し、控除しきれない分は住民税から最大13.65万円まで差し引ける制度です。
控除期間は新築13年・中古10年が基本。借入限度額は住宅の性能等により異なり、長期優良住宅・ZEH等は4,500万円(控除上限31.5万円/年)、省エネ基準適合住宅は4,000万円(同28万円/年)、一般住宅は3,000万円(同21万円/年)です。
【計算例:残高3,000万円・省エネ基準適合住宅】
- 所得税控除額=3,000万円×0.7%=21万円
- 年間所得税が14.1万円の場合 → 差額6.9万円は住民税から控除
- 住民税控除上限13.65万円以内のため全額適用可
【控除期間13年の総控除額イメージ】
年 | ローン残高 | 控除額 |
---|---|---|
1年目 | 3,000万円 | 21.0万円 |
5年目 | 2,650万円 | 18.6万円 |
10年目 | 2,050万円 | 14.4万円 |
- 繰上返済を急ぎすぎると控除額が減るため総合CFで判断
- 転勤で賃貸に出すと控除停止。再入居要件に注意
医療費控除・セルフメディケーション税制の概要
医療費控除は家族合算の年間医療費が10万円または総所得の5%を超えた部分(上限200万円)を所得控除できます。対象は診療費・処方薬・通院交通費などで、美容目的の施術は不可。確定申告で領収書提出は不要になりましたが、5年間の保存義務があります。
セルフメディケーション税制はスイッチOTC医薬品の購入額が年間1万2,000円を超えると超過分(上限8万8,000円)を所得控除できる制度で、健康診断や予防接種を受けることが要件です。
両控除は選択適用のため、医療費が総額12万円でOTC医薬品2万円の場合は通常の医療費控除(超過2万円)よりセルフメディケーション税制(超過8,000円)が有利になるケースもあります。
【控除比較フローチャート】
- 年間医療費総額を集計
- OTC医薬品購入額を抽出
- 総額≧10万円 or 所得×5%? → YES:医療費控除
- OTC額≧1.2万円&健康診断実施? → YES:セルフメディケーション税制と比較
- セルフメディケーション税制はOTC対象リスト掲載品のみ
- 医療費控除は高額療養費や保険給付金を差し引いて計算
ケーススタディ|年収500万円会社員の手取り試算

モデル年収500万円(賞与2か月×2回、月給31.25万円)を想定し、2025年度の税・保険料率で「独身」と「配偶者+子1人扶養」それぞれの年間・月額手取りを試算しました。
前提はiDeCo・ふるさと納税なし、社会保険は40歳未満。独身は人的控除が基礎控除48万円のみのため課税所得が高く、手取り率は約77.8%。扶養2人は配偶者控除38万円+扶養控除33万円が加わり、可処分率は約80.8%に上昇します。
独身 vs. 配偶者・子1人扶養の比較
区分 | 年間手取り | 控除内訳(税・保険料) |
---|---|---|
独身 | 389万円 | 所得税14.1万・住民税24.0万・社保72.8万 |
扶養2人 | 404万円 | 所得税8.4万・住民税14.8万・社保72.8万 |
【差額ポイント】
- 所得税:扶養控除効果▲5.7万円
- 住民税:翌年度負担▲9.2万円
- 手取り差:年間+15万円(月+1.3万円)
- 配偶者年収103万→130万円で控除縮小・手取り差が半減
- 児童手当・保育料は住民税課税所得で決まるため更に差が拡大
住宅ローン控除適用時の手取り変化
35歳・新築(省エネ適合)残高3,000万円、控除率0.7%で試算。独身モデルは控除上限21万円のうち所得税14.1万円を全額控除し、残余6.9万円を住民税から差し引きます。扶養2人は所得税8.4万円を全額控除し、残余12.6万円を住民税から控除(上限13.65万円以内)。
区分 | 控除前手取り | 控除後手取り |
---|---|---|
独身 | 389万円 | 410万円(+21万) |
扶養2人 | 404万円 | 425万円(+21万) |
【インパクト】
- 控除額は残高依存のため、繰上返済前に総合キャッシュフローを要確認
- 住民税控除上限を超える場合は控除漏れが起きないよう要注意
- 転勤で賃貸化すると控除停止。再入居要件に注意
- 控除初年度は原則確定申告、2年目以降は年末調整
まとめ
年収から控除までの仕組みを理解すれば、手取りを把握するだけでなく増やす方法も見えてきます。本記事の早見表と計算手順を活用し、所得控除や住宅ローン控除を適切に適用すれば、今日から可処分所得を押し上げる具体策を実行できます。
また住民税・社会保険料を含めた総負担の将来予測もできるため、結婚や子育て、住宅購入などライフイベントごとの家計シミュレーションにも役立ちます。ぜひブックマークしてご活用ください。